装いは欲望する

人は誰のために装うのだろうか。この問いを道行く人に問いかけたなら、「自分のため」「他者のため」と答えが分かれるかもしれない。しかし果たしてそれは、二つの別の目的として完全に分けられるものなのだろうか。

おばさんになったら

年を重ね、装うことに対して無頓着になった。前は違ったのに。かつては、ほかの人の目線を意識し、自分をより素敵に見せることを私なりに楽しんでいた。でも今は違う。気づいたら地味な服ばかり着ている。子育てがはじまってからは特にだ。

畑をやることにした。

自分が笑っているときに、「あ、いま私は笑っている」と意識することは結構難しいと思う。

積極的に悪く言われたいとは思わないのだが、同じような中傷やからかいはずっと続くと慣れてしまう。よろしくない傾向だとは分かっているが、意思とは関係なしに慣れてしまうのだから仕方ない。

笑いとは一種の破壊だと思う。笑うということは一つの救済だ。笑いと笑うこととの間には隔たりがある。それらは時に同じことだし、時に全く違うものだ。

私は笑うのが苦手である。

生きてきた中で、笑うことのできなかった瞬間を思い出す。

「笑うことについて」というお題で、自分ごととして書ける話がまったく思い浮かばない。

昨今のコロナ禍で、オンラインビデオツールを使って人とコミュニケーションをとる機会がとても増えた。ZoomミーティングやGooglemeetsなど様々なツールが用いられるのだが、そのときにハッとするのが「自分の真顔の恐ろしさ」だ。

「困難」を語るということは「困難」のただなかにある人には決してできない、と私は考えます。

「大丈夫？ちゃんと寝れてる？」「いやそれが、いつでもどこでも寝られるんですよ、僕」

それで、睡眠はどうですか？寝付きは。　いいです。いつも布団に入るとすぐ眠ってしまいます。　そうですか、それはとてもいいことです。

「眠ったことのある場所」を思い出すことは、私にとって他の場所を思い出すことよりも特別である。幼少期のいつ頃からか、人工呼吸器を付けなければ安全に眠れなくなった。

「さよならを言うことは少しの間死ぬことだ」とはレイモンド・チャンドラーの小説の探偵フィリップ・マーロウの言葉だったか。そんな気もするし、そうでもない気もする。もしそうだとしたら、眠るということも少しの間死ぬことなのかも知れない。そんな気も……、いやそんな気はしない。