晩春といえばラディッシュだ。
ろくに間引きもせず、育つに任せていたら、毎日のように大量に採れた。野菜嫌いで食べはしない7歳の息子も「ぼくもとる!」と勇んで収穫する。目にも鮮やかに輝く紅色の実を、市民農園に設置されている地下水ポンプでざっと洗って持ち帰る。
採れたてにマヨネーズをつけてかじると、奥歯の間で新鮮な実が砕ける。口に次々と放り込みながら、ぐらぐらと沸かしたお湯で葉を茹でる。ほんの数十秒火を通したら、ざるにあけ、流水で冷やして絞り、小さく刻む。ごまと砂糖醤油で和えるのもいいし、シンプルに塩とポン酢でいただくのも格別だ。息子も食べられたならいいのに。
豊作を迎えるラディッシュを横に、夏野菜の準備をはじめる。苗はホームセンターより市場の方が安い。オクラ、ピーマン、ミニトマト、ナス、キュウリにすじなしインゲン。昨年の学びを活かして、ミニトマトとキュウリにはちゃんと支柱をつけた。これで野放図に地を這うことはないだろう。(6 ミニトマトの生命力参照)
当初は苗が頼りなくて心配したオクラも、約1カ月が経ってマイペースにしっかりと根を張った。虫がついて葉がやられ、心配したキュウリも、手作業で虫を取り除いたら新芽が出てきた。勢いの良いジャガイモの葉陰に隠れてピーマンもすくすく育っている。ピンクの種が可愛らしいすじなしインゲンもこれまた愛らしい芽を出し、本葉が出そろった。ミニトマトには早くも赤ちゃんのような実がつきはじめている。芽かきをして、水耕栽培にも挑戦している。
一株一株がそれぞれの成長を見せる市民農園の隣で、麦畑が黄金に染まっている。遠目にもつい立ち止まってしまう色合いだ。一つ手に取れば、そのフォルムの美しさにじっと見入ってしまう。つい誰か大切な人を想い、贈りたくなってしまう魅力を持っている。
麦を育ててみたい、とふと思う。いつかほんとうにそうなるかもしれない。こういうふうに、何かに実際に触れて初めて感じることがあって、そこから新しい希望が生まれる。そんなふうに人生は拓けていくものなのかもしれない。