一番きれいな私

 私はアイドルが好きだ。特にジャニーズが好きで、詳しいわけではないけれど女性アイドルも好き。二次元アイドルは男女共に追いかけているアイドルがいる。

 アイドルが好きだと、必然とアイドルのライブやコンサートの現場に足を運ぶことになる。そこで、コンサートに参加するファンの装いを見るのは私のひとつの趣味だと言っていいだろう。

 私が骨を埋める覚悟でいる、とある二次元男性アイドルのコンサートにくるファンは、それはもう様々な装いの人がいる。持っている鞄から覗く公式グッズのぬいぐるみや缶バッジ、さらにはその装いから、会場に向かう電車や駅で「同じライブに行く人だ」とわかってしまうのが面白い。

 そのコンサートグッズのパーカーやライブTシャツで来る人もたくさんいる。でも多くの人は、自分の応援しているアイドルのメンバーカラーを身につけていることが多い。

 メンバーカラーの身につけ方も様々だ。公式に出ているメンバーカラーのアパレルをきてくるのはベーシックな装いだが、全身その色のワンピースやパーティードレスで来る人が結構多い。ロリータ系の装いの人も一定数いる。メンバーのキービジュアルのアイドル衣装を女性アイドル風にアレンジしたコスプレっぽい服装の人もいる。メンバーカラーでコーディネートした和服でかっちりと決める人もいれば、果てには歌詞から連想した宇宙服でライブに参加する人もいる。

 私は最初の数年は背中にデカデカと応援しているアイドルの名前を背負ったメンバーカラーの法被で参加していたけれど、最近は法被文化は下火になってきていると感じる。次に作るとしたらメンバーカラーの特攻服かな、などと考えたりしているところだ。

 ジャニーズの現場はまた少し毛色が違う。こちらはグッズのアパレルを身につけてくる人がとても少なくなる。じゃあ何を着てくるのかというと、単純にオシャレをした綺麗なお姉さんが多くなる。もちろん、そのオシャレに応援しているアイドルのメンバーカラーを上手に忍ばせるので、ファン同士は「あ、あの人○○担なんだ」と理解できるのだ。

 他にも多いのは「双子コーデ」という、一緒に行く人でお揃い色違いの服を着て参加するコーディネートだ。これはジャニーズの現場にかなり多く見られる。ひとりだとちょっと浮きそうなワンピースや花冠、リボンやパールを編み込んだヘアスタイルも、二人でやっていると「双子コーデなんだな」と納得するので不思議だ。個人的に長い髪に花冠を被ったミッドサマーみたいなオタクのことがとても好きで可愛いと思っているのだけれど、オタクじゃない人にはウケはどうなんだろうか。ちょっと聞いてみたい。

 ここまで女性ファンが多いコンサートでの装いの話をしてきたけれど、これが男性ファンが多いコンサートでの装いの話になると話が変わってくる。

 とある二次元女性アイドルが好きでライブに行っていた頃にとても不思議に思ったのだが、男性ファンはオシャレをしない。

 みんながみんなというわけではない。気合を入れているんだな、という人もいる。そういう人は大体前面にアイドルの顔が印刷されたフルグラフィックTシャツにキャラクターメンバーカラーの法被を着ていることが多い。たまに応援しているアイドルのコスプレをしている人もいる。(しかしそれも女性が多い。)こういう装いのコンサートのオタクが私は好きだ。

 でもメンバーカラーの服を着ている人もライブTシャツを着ている人も女性ファンが多い現場に比べたら圧倒的に少なく、大体の人は普通のTシャツにジーパンを履いている人が圧倒的に多いのだ。

 私は、コンサートのために服を作ったり法被を作ったりメンバーカラーのワンピースや浴衣を着ていくタイプのオタクである。なんでそんなことをするかというと、好きなアイドルに自分を見つけてもらうためだ。

 何千何万と人がいるコンサート会場で、「私はあなたを応援しているよ」ということを伝えたい。私の声が届かなくても、目さえ合わなくても、「あなたを応援している人がここにいるよ」ということを伝えたい。(あわよくば目があってファンサを貰いたいという下心もある。)そして大好きな人の目に映る瞬間があるなら、一番綺麗な自分でありたいと思う。私はそんな気持ちで服を選びメイクをしてコンサート会場へ向かう。

 コンサートをするとなると、アイドルはもちろん男性も女性も関係なく、最高の衣装に髪色や髪型なんかも整えて、最高のステージにするためにビジュアルも整えて「最高の状態」でステージに上がろうとしてくれる。体型の維持、メイク、衣装作り、照明、ステージング、表情作り。全て彼らにとっては「仕事」だ。だからこそ手を抜かない。アイドル本人はもちろん、たくさんの人の本気が集まって「アイドル」が出来上がる。

 私は男性ファンのTシャツジーパンはそういう「アイドル」に対する怠慢ではないかと憤慨する思いを抱いている。

 女性アイドルに詳しい友人曰く「男性ファンはアイドル側から見られてるという意識が薄い」という話を聞いた。じゃあ「上の方も見えてるよー!」というアイドルの言葉をどんな気持ちで聞いているのだろう。「ここで応援している自分を見つけてほしい」という夢は持っていないのだろうか。私にとっては至極不思議な話である。

 人は装う。

 アイドルのコンサートに集うオタクたちの「大好きな人のために」選んだ服と、髪型と、メイク、爪先、「装い」。そいういうものを私は愛している。

 誰かのために「一番きれいな自分」を装う心は、ファンも、もちろんアイドルも、一番美しいもののひとつだと私は信じている。