夫と私のよもやま話Vol.9

夫と私のよもやま話、最終更新からちょうど1年程が経った。この1年の間に、我々夫婦の間には様々な出来事があった。夫の転職や私の転職。大波小波。私は今仕事を辞めて専業主婦をしている。

夫とはもうすぐ付き合って4年半、結婚して3年半になる。これまでこの「よもやま話」シリーズでも度々言及してきたが、今日は子どものことについて話したい。

私は子どもが欲しいと言ったりいらないと言ったり、この1年の間に妊活らしきものに挑戦してみたりしてみなかったりした。そしてしばらく妊活はいいや、となっていたのが最近までだ。


きっかけは友人が子連れで我が家に遊びに来てくれたことだった。その子が家に遊びに来てくれる前、私は少し緊張していた。私の住んでいるところのすぐ近くにはイオンモールがあるのだが、そこできゃあきゃあとはしゃぐ子どもの声を聞いて、正直にいうと「うるさいなあ」と思ったり、気分が悪くなって発作が出たりしていたからだ。私は元々子どもが大好きだったはずなのに、自分が妊娠するかもしれない立場に置かれてみると、子どもというのは異質な存在であり、自分にとっては異物になってしまっていた。そんな子どもが我が家に遊びに来る。どうしよう、大丈夫かな。


友人のお子さんは小学生で、利発そうな女の子だった。私は初めて彼女と玄関先で出会って、「かわいいなあ」と思った。とても月並みな感想だけれど。その子も最初は緊張していたようだが、徐々に私と打ち解けてくれて、最新のたまごっちではどんなことができるのだとか、算数のドリルでどんな問題が解けるのだとか、バレエを習っていて開脚がこんなにできるだとか、様々なことを私に教えてくれた。私はついついその子と話すのに夢中になってしまって、友人と話すのを置いてけぼりにしてしまったくらいだ。その子が最近のプログラミング学習はこんなことをやるんだということをタブレットで教えてくれるというので、思わず私はソフトウェアエンジニアの夫を呼びつけて(夫は自室に引きこもっていた)、ねえこんなことをするみたいだよと皆で一緒になってワアワアと盛り上がった。夫は女の子とどうコミュニケーションをとっていいかわからなかったようで、私の友人と二人で盛り上がっていて、私は夢中になってその子とふたりで「こんなこともできるんだね!」「おばちゃんそんな算数の問題解けないやぁ、教えてよ〜」「おばちゃんの子どものときのたまごっちと全然違うなぁ」「たまごっちにフォーをおやつであげるの?おしゃれな食べ物食べるんだねえ」「おばちゃんもそのゲームやってみていい?」とたくさん会話した。

正直言ってとても、とても楽しかった。

別の友人が高齢出産したことも大きな影響を私にもたらした。月齢フォトとしてあげている娘さんの写真が可愛くてしょうがなく、私は神戸に住む彼女の家に遊びに行った。生後半年ほどの娘さんに会いにいくのに、パニック発作を抱えながら1時間半かけて神戸までひとりで遊びに行った。生後半年の赤ちゃんは本当に天使のような可愛さを全身で表現していて、というかそこに居るだけで、泣いていても笑っていても可愛いくて、心の底から赤ちゃんがいる、子どもがいるっていいなあと思えた。


そんなこんながある中で、私と夫の妊活が始まった。妊活と言ってもあれである、まあ、避妊をせずに性交渉するというだけである。排卵日に近いあたりで性交渉をしたので、もしかしたらもしかするかもね、と言って夫婦二人でどんな名前にしようか、どんな子に育って欲しいか、中学受験をすべきかとか、まだ影も形もないベビーに様々な期待を持ってしまう。神戸に住む友人に訊いたら、「そういうのを考えるのは産まれる前が多いよ、産まれたら目の前のことで必死よ」と言っていた。実際そうなのだろう。それでも私はこの初めてのちゃんとした妊活に、期待と不安とがない混ぜになった複雑な気持ちで、挑んでいた。

排卵日あたりから高温期が続き、胃のムカムカと吐き気がいつもより酷く出る。これはもしかしてもしかするんじゃないか、と「妊娠超初期症状」でググる。当てはまる、当てはまる。

それからしばらくしんどい時期が続き、嘔吐した日も何度かあった(私は嘔吐するのが本当に下手だし苦手だ)。これは本当にもしかするんじゃないかと、友人から教わっていた「たまひよ」のアプリを入れ、「妊活ルーム」と「2026/4(産まれ予定)」ルームを行き来する。普通の妊娠検査薬(生理予定日1週間後から使える)も買っておいたのだが、気が急いていて、早期妊娠検査薬(生理予定日から使える)も買った。そして、早期妊娠検査薬でフライング検査も2回した。結果は陰性。

生理予定日の前日の夜、大々的に戻してしまい、こんな辛い思いをするなら妊娠していてくれよ、頼むよ、と思う。


予定日の朝を迎えると、生理が来ている。

なんだったんだ。

これは偽妊娠というやつで、妊娠したくてたまらない人や、妊娠に恐怖を感じている人がよくなる症状らしく、もちろんそれも疑いつつこの日を迎えたのだが、やはりこれだけ身体症状が出た後に生理がぽんと来ると、暗澹たる気持ちになる。私はこれからこんな身体症状を毎月抱えながら妊娠に向けて頑張れるのだろうか。生理が来た日にかかりつけの産婦人科に即日でブライダルチェックの予約も取る。不妊治療もやってやる。そう思いながらも、心はどこかぽっかりと穴が空いたように寂しく、虚しく、辛い。まだちゃんとした妊活を始めてすぐじゃないか、と思うが、妊活を始めてすぐでこんなに辛いのに、もし中々子を授からなかったらどうしよう、流産したらどんな気持ちになるのだろうと思う(流産を経験している人は少なくないようだ)。つらい。苦しい。

今日はメンタルクリニックへの定期通院だった。妊娠禁忌薬をまだほんの少し飲んでいたが、完全に断薬しましょうという話になる。まだ妊娠禁忌薬を飲んでいたから、神様が今ではないよとご計画なされたのかもしれない。そう思うことにする。まだ完全に煙草を辞められていないから、今ではないよと。健康診断で引っかかったところの検査が終わってないから、今ではないよと。無理やりそう思う。色んな感情を心の引き出しに無理やり仕舞い込む。整理整頓は、時間がやってくれるはずだろう。きっと、そうであって欲しい。通院帰り、夫と回転寿司に行く。今は生理中だから、寿司を食べてもいい。大好きな寿司を好きに食べる。少し泣きそうだ。本当は今、寿司を食べてはいけない身体になっていたかった。妊活始めたてで早々子どもができないのはわかっている。でも、私の身体と心に起こった様々の変化は、夫と一緒に乗り越えたそれらは、これから待っている様々な辛い苦しいことを暗示しているようで、それが長引く不妊治療だったとしても、子どもができた喜びとともに生まれる苦しみであっても、ひとつの大きな困難として夫婦でえいやと乗り越えていかなければならないだろう、と思う。ちょっと、いや、結構不安だ。

でも、私は。夫となら、乗り越えていける、はずだ。いや、乗り越えるんだ。

夫と歩んできたこの4年半、私は彼を心から信頼している。

だから、神様。私たち夫婦にいつか赤ちゃんがきてくれますように、と、心から祈って、筆を置く。