あなたに手紙を

「あわい」という言葉に最初に出逢ったのがいつなのか、誰のどんなテキストだったのかはもう覚えていないのだが、20代前半か半ばぐらいの、今よりもっとずっとぎこちなく、世界との接点を探っていた当時の僕は、これはきっと自分に必要な、大切な言葉なのだという受け取り方をしたと思う。出来事の記憶は薄れても、感覚と印象が身体に残っている。少なくとも、そういう直観を伴う出逢いだった。

言葉の意味は「あいだ」と変わらないのだが、「あわい」という音の響きと、音から喚起される色のイメージが良いなと思って、そのまま屋号にした。ドメインを取って個人サイトをつくってもらったのが10年ぐらい前だが、そのときはまだ漢字を当てていなかった。会社勤めをしながら個人の物書き仕事も増えてきて、7,8年前ぐらいに名刺をつくってもらったときに、この「閒」という漢字を教えてもらった。左右両開きの戸を閉じた隙間から月の光が漏れる様子を表した会意文字で、これまた「間」と意味は同じというか、要は現在は常用されていない旧字体で、いつから月が日に置き換わったのか詳しく知らない(調べていない)が、昔の人にとっては太陽より月の光の方が身近な存在だったのだろう。音に続いて佇まいもこっちが良いなと思って、それから「閒」の字を当てるようになった。6年強勤めた会社を退職するのに数ヶ月先立って「株式会社閒」の法人登記をしたのが2020年5月11日、ちょうど今日で丸3年が経ったことになる。会社の年度も5月からなので今月から4期目に入った。ちなみにこの「閒」が旧字体ゆえに法務局の法人検索システムでは「間」と書かないと引っかからなかったり、郵便物の宛名が時おり「?」と文字化けしていたり、メールや書類で社名を書くときに一発で変換できなくて不便だと知人友人に言われたりするのだが、それも含めて気に入っている。

というわけで、一応独立して3年生き延びた。相変わらず何屋か分からんというか、ものも書くし企画も編集も研究もするし、介助もするし、事業運営やメディア運営もするし、ファンドレイズもするし…と、ご相談や状況や必要に応じていい感じに握りまっせという感じなのだが、かといってなんでも節操なくというわけでもなく、個別具体のケースや動きは違えど、僕に声をかけてくれる人たちの困りごとや関心や期待や直観の重なるところは確かにあって、そうした関わり合いの「あわい」から掬って出てきた、「生活を創造する」知と実践、という言葉を、最近、手元に置いている。

自分や身近な人が病気になったり、家族や地域や職場といった人の集まりにおける歪みやすれ違いが生じていたり、これまでの経験を活かしたりあるいは手放したりして新しい仕事や事業や表現を始めようとしていたり、その人が抱えている痛みや望みはさまざまなのだけど、いずれにせよ、これまでと同じようにはいかなそうだ、という出来事が、生きていれば時に起こるもので、それは確かに大変なことではあるのだけど、その人がよりその人らしくあれるように、自らの生活を創造する契機でもある。

一人で考えていると袋小路に入ってしまうが、たくさんの物事に繋がりすぎるとそれはそれで一歩も動けなくなる。使える資源があまりにも乏しいのも困りものだが、身に余るほど多くを抱え込んでも腐らせるだけだ。

固有の身体を持つ私たちが、異なり合いながら重なり合う、小さく新しく多様でありながら広く旧く普遍である、閒-あわい-が掬って紡ごうとしているのはそんな物語だ。

個別的で具体的なそれぞれの身体と足場から、生活を創造しようとしている人たちに、またそうした一人ひとりの生活を支え、拡げ、彩り、結び、繋げようとする事業/研究/芸術に取り組む人たちと、共にありたいと思う。

海の底で生まれた新しい島が海面を抜けて人々に姿を見せるまでにはそれなりの年月を要するが、創造のプロセスはそのずっと前から始まっている。

もとより全てを書き記すことはできないし、水面下の蠢きをみんながみんな知る必要もないのだが、そのプロセスの一部でも開き分かち合うことでまた新しい物語が生まれるかもしれないし、面白がってくれる人はいるだろうし、少なくとも僕自身がそういう書き物の場とリズムを必要としているので、とりあえず月に一回、書いて放流する、ということを始めようと思う。これを書いているのが2023年の5月11日、今月末からスタートします。ニュースレターというのか、メールマガジンというのか、呼び名や題名を決めあぐねているのですが、配信までには決めます。以下のフォームにお名前とメールアドレスを登録いただくか、鈴木悠平に「送ってー」と直接言ってもらえれば送信リストに登録します。僕から「読んで―」って連絡いくかもしれません。

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