ラジオ「作家ってなんだろう」
第8回「壁で分かたれたまま、互いを思い合う―奈良監獄ミュージアム出展によせて」
今回は、2026年4月27日に開館した「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」についてお話ししています。
明治の五大監獄の一つであり、重要文化財でもある「旧奈良監獄」を保存・継承していくこのプロジェクトに、私が共同代表を務める「Prison Arts Connections(PAC)」も、C棟「監獄とアート」エリアの展示アーティストとして参画しました。 ・なぜPACが奈良監獄ミュージアムに参画することになったのか。
・「受刑者」「犯罪者」というカテゴリーではなく、壁の向こうにいる具体的な「個」の声や物語に触れてもらうためのキュレーションの工夫。
・文化財保存の難しさと、PFI事業という仕組みが持つ意義。
・監獄という管理の場が持つ暴力性や、それをミュージアムとして安全な場所から「見る」という行為(まなざし)が孕む暴力性への自覚。
・当時の建築家たちが美しき建築に込めたケアの視点、現在を生きる私たちが受け継げること。
行き来できない壁で隔てられていても、作品を通して対話し、「共にある」ことはできるのではないか。そんな思いを込めて、この場を作り上げる過程で感じたこと、考えたことを語りました。ぜひお聞きください。
以下は、収録音声の文字起こしを元にしたテキストです。
発話・録音の「素起こし」ではなく、読みやすさを考慮して、適宜ケバ取り、要約、編集をしています。
こんにちは、作家の鈴木悠平です。今日のPodcastでは、先日4月27日にオープンした「奈良監獄ミュージアム」についてお話ししたいと思います。
奈良監獄ミュージアムは、明治の近代化の過程で建てられた五大監獄の一つ「旧奈良監獄」(現在は重要文化財)を、星野リゾートさんが運営となり、未来へ継承していくプロジェクトです。建物と敷地全体をリニューアルし、ミュージアムとホテルという2つの業態で運営していくというもので、今日私がこのプロジェクトについてお話しするのは、私が共同代表を務める非営利団体「Prison Arts Connections(以下、PAC)」が、ミュージアム内の展示に参画しているからです。
関連記事:美しき監獄からの問いかけ「奈良監獄ミュージアム」にPACが出展
作家として、またディレクターとしての視点を含めて、このプロジェクトや、そこでどのような展示をどんな考えで作ってきたかをお話ししたいと思います。
旧奈良監獄の背景とプロジェクトの全体像
旧奈良監獄は、1908年(明治41年)に建設されました。当時、江戸時代から明治維新を経て西洋近代に入っていく中で、日本は欧米列強との不平等条約を解消し、「近代化された国である」ということを実態としても発信としても示さなければなりませんでした。
その一環として、司法制度や監獄の近代化も急務でした。江戸時代の座敷牢のような環境ではなく、罪を犯した人たちの人権や暮らし、その後の社会復帰や更生教育を含めて、近代的な基準で運営される施設が必要とされたのです。そうした経緯で、当時の建築技術の総力を結集して建てられたのが、この赤レンガ造りの美しい奈良監獄です。歴史的価値が高く、五大監獄の中で唯一全貌が残っていることから、重要文化財に指定されています。
この文化財を保存し維持・継承していくために、PFIスキームとして星野リゾートさんが運営を受託しました。クリエイティブディレクターに佐藤卓さん(TSDO)、内装・展示施工に野村工藝社さんが入り、その他にも多くの研究者や建築・施工関係者が関わる、非常に大きなプロジェクトです。
PAC参画のきっかけと、ミュージアムの構成
PACではこれまで、刑務所で服役中の方たちの芸術作品を集めて展示する「刑務所アート展」を、東京のギャラリーなどで3回開催してきました。ふだん行き来できない刑務所の内と外の人が作品を通してつながり、被害と加害、司法の在り方、回復といったテーマについて対話する場を作ろう、という趣旨です。
昨年開催した第3回刑務所アート展に、奈良監獄ミュージアムのアートキュレーションを担当されている楠見清さんが来てくださり、「ぜひ一緒にやりませんか」とお声がけいただいたのが、私たちが参画するきっかけでした。
ミュージアムの展示は、A棟・B棟・C棟という3つの棟を巡る構成になっています。 A棟「歴史と建築」では、奈良監獄の成り立ちや日本の行刑の歴史を紹介し、B棟「規律とくらし」では、規律や食事、入浴など、刑務所という一つの社会の中での具体的な生活を紹介しています。実際の食事サンプルなども展示されており、ふだん知る機会のない環境を知ることで「自由とは何か」という問いが浮かび上がってくるようなエリアです。
そして、私たちが参画しているのがC棟「監獄とアート」です。旧医務所棟を改装したギャラリーで、西尾美也さん、キュンチョメさん、三田村光土里さん、風間サチコさん、花輪和一さんといった5組のアーティストと、私たちPACが、それぞれの部屋で作品を展示しています。「罪と罰」「時間と記憶」といった普遍的なテーマを通して、社会課題の受け止め方を来館者に静かに問いかける空間になっています。
集団ではなく、具体的な「個」とつながるキュレーション
PACの展示は、ミュージアムの出口直前、一番最後の部屋にあります。過去3回の「刑務所アート展」の応募作品から、26人・30作品(絵画、俳句・短歌、書、手紙など)をキュレーションしました。
展示作品情報はこちらの記事にまとめています。奈良監獄ミュージアムC棟7号室「刑務所アート」展示作品
この展示で私たちが一番大切にしたのは、「受刑者」や「犯罪者」といった集団・カテゴリーとして客体化されてしまいがちな、刑務所の中にいる人たちの「個」としての声や物語に、少しでも触れられるようにすることです。
A棟・B棟で歴史や規律を見ると、来館者のまなざしは「受刑者」という集団に対して客観的になりがちです。しかし、刑務所の中にも一人ひとり違う人間がいて、生きてきた歴史も、表現したいことも違います。だからこそ、作品と作家のコメントを通して、直接会うことはできなくても、壁の向こうにいる生身の人間を想像し、つながるきっかけになれたらと考えました。
また、順路の最後であることを考慮し、作品数を絞りつつ、直感的に受け取りやすい絵画の比率を高めました。モチーフも、反省や内省を描いたものだけでなく、刑務所生活への風刺、家族へのメッセージ、ふるさとの思い出、動物の絵など非常に多様です。「刑務所アート」と一言ではくくれない、その多様性や幅を感じてもらえるように構成しています。
さらに隣の部屋には、来館者が手紙を書いてポストに投函できるスペースを設けました。ミュージアム運営や刑事施設と相談しながらですが、いただいた手紙を服役中の作家たちに届け、また彼らからのお返事を展示するといった、擬似的な文通のような仕組みや流れを作っていきたいと考えています。
「共にあること」と、まなざしの暴力性への自覚
4月20日の関係者内覧会で、私は皆さんにこうお話ししました。 「ここに展示されている作品を作った作家たちは、ほとんどがまだ刑務所にいて、ここに来ることはできません。私は彼らに代わってここに立っています。行き来できない壁で隔てられていても、こうして作品やメディアを通してつながり、対話し、共にあることはできると信じています」 とても魅力的に展示していただいたので、この様子は手紙を通じて刑務所にいる作家たちにも報告する予定です。
最後に、文化財の保存と継承について少し大きな話をさせてください。 こうした歴史的資産を保存していくには、資金や人員など多くのリソースが必要です。民間が運営を受託し、ホテルやミュージアムとして事業性を担保しながら保存していくことに対して、「負の遺産を見世物にしている」といった批判的な見方もあるかもしれません。しかし、何らかの工夫と実践がなければ、文化財は残っていきません。関わっている方々は皆、それぞれの立場で非常に誠実にお仕事をされていました。
一方で、監獄や刑務所という「管理する場」は、その構造や規律において、ある種の暴力性を帯びています。そして、それをミュージアムという安全な場所から「見る」という私たちの行為(まなざし)の暴力性も、決してゼロにはなりません。
それでも、そうした負の部分も含めて私たちが歴史を知り、受け止め、過去から学ぶことは必要です。当時の建築家たちも、規律や管理の場でありながらも、光や風を取り入れ、少しでも人間的な環境を作ろうと、その時代における最善を尽くしていました。そこには確かな人間の「気遣い」があり、その結果としての建築の美しさがあります。「美しき監獄からの問いかけ」というコンセプトの通り、そうした複雑さも含めて、皆さん一人ひとりが何かを感じ取り、持ち帰っていただけたら嬉しいです。
C棟の展示はおおむね3年スパンで入れ替わる予定ですが、今後もギャラリーツアーやトークイベントなどを企画していきたいと思っています。機会があれば、ぜひ奈良監獄ミュージアムに足を運んでみてください。
ラジオ「作家ってなんだろう」
・作家という生き方、生業について、つくることについて
・これまでの作品、プロジェクトについて、作家としてどんなことを考えて、誰と、何を、どんなふうにつくってきたのか、の振り返り。
・いま、これから、つくろうとしていることについて
などを語ります。
当番組のホスト:
鈴木悠平 作家/インターミディエイター®(Author/Intermediator®)
閒-あわい-
https://awai.jp.net
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番組一覧:
「作家ってなんだろう」 https://stand.fm/channels/68e3af5e036795923c4d6467
つくること、つくったこと、つくるプロセスについてあれこれ語る
「閒(あわい)日記」 https://stand.fm/channels/68ad6602f60500ab28d00fd2
作家の日記
「寝るまえ本棚」
https://stand.fm/channels/66d07e0106dbc95aee6252af
寝る前に15分から30分ぐらい、いま読んでいる本から一冊選んで、印象に残ったところを引きながら話します。
回復する未来へ PAC(Prison Arts Connections)チャンネル https://stand.fm/channels/69841aed4144beda36932ff3
「刑務所アート展」の企画・運営を中心に、アートを通して刑務所内外を結び、対話と創造を生み出す非営利団体「一般社団法人Prison Arts Connections」共同代表 風間勇助と鈴木悠平によるダイアログです。
▼奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート【公式】 https://hoshinoresorts.com/nara-prison-museum/ja/
▼美しき監獄からの問いかけ「奈良監獄ミュージアム」にPACが出展
https://pac-j.com/article/event/musium20260310/
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