レーモン・クノーの『文体練習』より その7 夢

 長く長く続く暗いトンネルのなか、まばらに掛かったカンテラだけが僅かに辺りを照らしている。どうやら私以外も大勢人がいるようだが、どんな顔で、どんな格好をしているのかほとんど検討がつかない。進むでもなく戻るでもなく静かに立ち尽くしている。ふいに後ろから声がしたので振り返ると、明かりの下に二人の若い男女がいて、何やらひそひそ声で話している。揃いのマフラーを巻いて身を寄せ合う二人は、この暗闇がどこまで続こうとも関係ないさという、ある種の楽観を備えているようだった。
 また別の夢。私は大きく開けた平地に立っている。どこからともなくラジオ放送が流れてくるが、何を言っているのか理解できない。10歩、20歩と歩みを進めると、一人の女性の背中にぶつかった。しかし彼女は何の反応も示さず、ただひたすらに手元の銀盤を指で叩いている。私はその行為の意味を推理し始めた。だが、その答えが出る前に、私の思考は寸断された。突如眼前に巨大な馬車が現れ、中から伸びた手に首根っこを掴まれて、そのまま連れ去られていってしまったのである。