透明人間の輪郭 2024/07/04

朝、子どもを園に連れていく時点ですでに暑い。夫婦ともに終日在宅ワーク、エアコンつけて家に引きこもって過ごした。熱中症アラートも出ていたようで、ここ最近、小学校と保育園それぞれの連絡アプリ・おたよりでも、子どもの熱中症対策についてのお知らせが届く。

お昼を食べに家のすぐ近くの定食屋にツマと向かい、残念ながら定休日ということで、次に近い中華料理屋に入った。暑い日に中華。二人してえらい汗をかきながら食べた(美味しいは美味しいのだ)。子どもを持つと、自分たちが小さかった頃の夏の記憶と比較して、ますますその実感が強くなるのだが、温暖化、気候変動、気候危機…である。この暑さは自分たち人類が招いたものだから今こうやって自分たちに返ってきているのであり、報いを受けて自分たちが滅びるだけならまだしも、将来世代と他の種も巻き添えにしてしまうものであるので、地球すまん、みんなすまん、という気持ちだが、とはいえ、そんなこと言って自分が倒れてもどうにもならないしで、身の回りの人との生活の安全と健康のためには、使うべきときにエアコンは使わなきゃなのである。

整体の先生と、まずは週2回、3kmのジョギングを、と約束し、生活リズムのなかで無理なく実現可能なタイミングを見つけてくださいねということで、この暑さでは早朝か夜しか走れないのだが、朝早起きは無理だし、夜、子どもを寝かしつけてからベッドを抜け出して走るのもほぼ無理(寝落ちする)なので、子ども二人をお迎えに行ってから、夕食までの時間、ツマにお子たちを頼んで走らせてもらうことにした。18時半から19時頃まで、家を出て京王線高尾山口駅まで走って帰ってくるとちょうど3kmぐらい、30分弱で帰ってこられた。この時間なら、まだ外を走れるぐらいの気温になってくれているので、良さそうだ。

帰ってからお子と一緒にシャワーを浴びて、夕食を食べて、寝かしつけつつ、Zoomで「ナラティヴと質的研究会」のオンライン研究会に参加。、「『スタートアップでパートナーシップが結ばれる瞬間』のビジュアル化」をテーマに、アントレプレナーシップを質的方法で研究する伊藤智明さん(横浜市立大学国際商学部 准教授)と、日本画家の石田翔太さん(横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科 客員研究員)が共同で発表。

伊藤さんは、「連続失敗起業家」(と、ご本人が自称されている)の乃村一政さんとの語り合い(伊藤さんと乃村さんはこのセッションを「ことばの交換」と呼んでいる)を12年以上継続してきており、「スタートアップでパートナーシップが結ばれる瞬間」の物語を書くことと半具象モデルを生成する研究に取り組まれている。

伊藤智明 (2022).「苦悩する連続起業家とパートナーシップ生成:二人称的アプローチに基づく省察の追跡」『経営行動科学』33(3), 119-141.

この日のオンライン研究会では、上記2022年刊行の学術論文から発展した取り組みとして、「スタートアップでパートナーシップが結ばれる瞬間」のビジュアル化の過程と現時点での成果をお話いただいた。伊藤さんと乃村さんの語り合いの記録や伊藤さんの解釈を日本画家の石田翔太さんが受け取り、ビジュアル化するという試みである。

お二人の発表のあと、研究会主宰のやまだようこ先生のコメントに続き、僕を含む参加者からも色んな視点から発言があり、とても楽しかった。一つに、学術研究としてのテーマ、問いの設定と、研究方法・(研究者である伊藤さんの)立ち位置の選択についての議論が活発になされ、これは自分が研究するうえでもよく考えねばならないことなのだが、それだけでなく、お二人の取り組みや、伊藤さんが長年起業家と対話を続けるなかで生まれてきたナラティブは、自分の経験としてもとてもよく実感・共感できるものだった。

これまでも、現在も、スタートアップ企業や非営利団体の創業者やチームに伴走し、ことばと物語りを共に探し紡いできて、ただ僕の場合は、お二人のように研究論文や絵画という形ではなく、企業のビジョンやミッションだったり、それを表現するステートメントや、インタビュー記事や、コーポレートサイト、それらを運営するメディアチームづくりといったものが、ある種の「アウトプット」になるのだが、そこに至るまでのプロセス(前提情報の収集・整理、聞き取り、問いかけ、仮説提示、対話、議論、試案・試行、要件や道筋の整理etc. 制作・実装に至るまでのあれこれ)も同じぐらいかそれ以上に重要だなというか、仕事だなと思っていて、それはもちろんその事業の担い手自身、つまり起業家や創業期のチームメンバーが自分たちでやっても良いのだが、(ポジショントークのようになってしまうが…)彼らと違う立場でありながら、近い距離で、継続的に対話し伴走する役割の人がいると見えてくる、形にしやすくなる、ことも少なくない、と思う(なので、対話および制作のプロセスを詳しく共有してくださったお二人の発表はとても興味深かった)。

お二人の発表が終わってからみんなで対話するなかで、「透明人間とダンスする」という表現が(伊藤さんと石田さんどちらかから)出てきて、それがとても象徴的だった。この表現を聞いたとき、参加者のみんなもそれまでと違う声や表情になっていて、きっとあのとき、僕たちは共通のビジョンを見ていた(と、参加者の多くが感じることができた)のではないだろうか。

創業期における、もがきと言ったらいいのだろうか…ビジョンも、プロダクトも、事業も、チームも、まだできていなかったり、見えていなかったり、断片的な言葉やイメージに留まっていたりするなかで、萌芽、仮説、試作の域を出ないものを、しかしまず、形にして、世に出して、当然ほとんどはすぐにうまくいくわけではなく、とはいえ何かフィードバックを得て、また次の一歩を踏み出して…の繰り返し、「ダンスする」相手(社会、市場、顧客、パートナー)が見えない、「透明」である時間、状況で、起業家は、それでも踊ろうとし続ける。

僕がどれだけ役に立てているかはわからないが、起業家たちが、出会うべき人や課題と出会い、手を取り合えるようにと願って伴走している。言葉、対話、物語は、暗闇のなかで自分と相手の「輪郭」を浮かび上がらせる助けになる、かもしれないと思う。

…この研究会のことを日記に書き記したくなったのは、この「苦悩」が他人事ではないからでもある。独立して、会社を立ち上げて、色々あったがなんとか生き延びて5期目に入った。会社といっても、代表取締役の僕一人である。上記の通り、他の起業家への伴走が、自分の仕事の一つにもなっているのだが、僕も、パートナーを必要としているのだ。