【短編小説】信号機

僕は歩道橋の上から信号機のかさの部分をぼんやりと眺めていた。信号機は規則的に赤青黄色に光って、車や歩行者を止めたり走らせたりしていた。僕はその様子を眺めながら周りに誰もいないことを確認して、ひとりで煙草に火をつけた。煙草の煙はどこか遠く僕の知らない世界に漂っていった。

僕は僕自身の不確かさを確認するように、丁寧に煙草を吸った。 僕の生き方にはいつも、信号機が黄色に光ったときに走って道を渡るような危うさがあったと思う。でも僕は青色で安全に道を渡ることを常として生きているような人に羨ましさを感じて生きてきた節もあった。

今は赤信号で、誰もこの道を渡ろうとはしない。次に信号が青になったら、僕も歩き出そう、家に帰ろう。

(Photo by Shoichi)