「鳥籠」
「おかえり」
「ただいま」
「どうしたの、それ」
玄関まで出迎えにきた彼女が、私の両手の先を見て言った。
「先生の家から。どうせそのうち捨てちゃうから、なんでも持ってってくださいって」
「ああ、息子さんね。でもなんでまたわざわざ」
レインコートを脱がせ、タオルで私の頭を拭きながら、マットに置かれた空の鳥籠を、彼女はなおも怪訝そうに見つめる。私が鳥を飼うつもりでないことは彼女も分かっている。
「本とか論文は、上の人たちが研究に使いたいだろうし、お皿とかコップとかは、もう二人で使う分は足りてるし、かさばるでしょ」
「それで、もっとかさばる鳥籠をもらってきたわけね」
リビングに向かう十歩足らずの間に矛盾を指摘され、そこで私はようやく、顔を上げて彼女の顔を見ることができた。
「だってさ。だって」
私はテーブルに座って、鳥籠を爪で弾きながら言葉を探す。彼女はキッチンでやかんを火にかける。
「この子が死んだのは寿命で、先生のとは関係ないよ。別事象」
「うん、まぁそうだろうね」
「あそこに残しといたら、追悼特集のリード文と挿絵に使われそうだったから。それで、なんか」
「あぁ、そういうこと」
「四十九日経ったら捨てる」
「いいよ、気が済むまで置いたらいい」