家族の記憶 ― 介助とヒーロー #7

TBSテレビの日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』を観て、「介助とヒーロー」というテーマのもと、脊髄性筋萎縮症(SMA)Ⅱ型による重度身体機能障害のある愼 允翼(しん ゆに)と、重度訪問介護制度による愼の介助者の一人鈴木 悠平(すずき ゆうへい)が対談する。最終回はEp.9「正義の行方」とEp.10「わたしの家族」について。

以下、Podcastに公開した音声ファイルのリンクに続いて、同音源の文字起こしを最小限編集・校正したテキストを掲載する。

ゆうへい:よし、じゃあ始めますか。「介助とヒーロー」収録7回目、『ラストマン-全盲の捜査官-』を毎週観て感想を語るというこの対談企画も最終回です。ドラマの最終章にあたる第9話、10話を振り返りつつ、このドラマ全体のテーマやメッセージを最後に2人で語らえたらと思います。いやー、終わりましたね…。

ゆに:終わりましたね。第9話のサブタイトルが「正義の行方」、第10話が「わたしの家族」、いいよね。「正義」と「家族」っていう、極めて普遍的かつ古典的なものを扱うんだって意気込みが相変わらず感じられて。僕がずっと話してきたように、障害者である皆実さんは「別の秩序」を持ち込むヒーローなんだけど、そのヒーローが持ち込んでくる秩序っていうのはすごく古典的な家族愛と公的な社会正義であると、その2つをすごく描いてて、本当にふさわしいお話しでしたね。

ゆうへい:非常に古典的なテーマを正面から扱うドラマだったよね。

ゆに:まずは復習からかな。最終章2話分を一気に語るので、ざっくりいきます。

ゆうへい:41年前に、大泉洋演じる護道心太朗の父親・鎌田國士が、福山雅治演じる皆見広見さんの両親・皆実誠と皆実勢津子を殺したと思われていたが、真相はそうではなかった。お父さんは殺人犯ではなかったし、さらに言うと皆実さんと護道さん―広見さんと心太朗さんは。同じお父さん(鎌田國士)と同じお母さん(皆実勢津子)から生まれた兄弟であったと。

ゆに:皆実広見さんのお父さんである皆実誠、要潤が演じてたんだけど、こいつが実はオチを言っちゃうとね、くそったれだったんだよね。こいつが大物政治家の弓塚敏也と、元警察庁長官の護道清二(護道京吾の父、護道泉の祖父)とズブズブの関係で、この政治家がその自分の不正をもみ消すために刺客を送って、皆実誠を殺して家に火もつけたんだっていう見立てで、第9話「正義の行方」では捜査を進めていってたんだけど、最終的にこの政治家の悪事ってのも、もう壮大な目眩しだったっていう。

ゆうへい:汚職は汚職で確かにあったんだけど。

ゆに:本丸はあくまでも、すごく古典的な家族の問題にあった。皆実誠っていうどうしようもない悪者が、自分が好きな女の人を金でぶんどっちゃう。でも金で愛情は買えず、自分の子供だと思って育てていた子供が、実は金で出し抜いた恋敵の息子で。

ゆうへい:先に身籠もっていて。

ゆに:それを許せないから女も子供を殺しちゃおうとしたのを、鎌田國士さんっていう、広見さんと心太朗さんの本当のお父さんが守ろうとした。当時まだ若い刑事だった護道清二さんは皆実誠に呼び出されて、殺人まで隠蔽させられそうになり、それでもう「こんな奴にはついていけない」ってことで、広見さんが誠に殺されそうになったところを守ろうとして、衝動的に殴って誠を殺しちゃったと。でも自分が犯人にはなりたくないから、鎌田國士さんの守りたかったもの(二人の息子の未来)守ると約束する代わりに、國士さんに全部の罪を被せて41年間真相を隠していたと。最初、大物政治家との対決って方向で行くのかなと思いきや、家族愛の物語だった、嫉妬と憎しみの話だった。そういう話ですよ。

ゆうへい:広見さんのセリフにもあったね。これは大物政治家も絡んだ大疑獄事件なんてものではなく、真相は非常に「小さな話」だったっていう。

ゆに:小さな家族関係の事件だったんだけど、関わった人間が政治家とズブズブのなんか金持ちで、そこに警察官僚の汚職も絡んじゃったがゆえに、えらいことになったように見えた。

ゆうへい:でも真相を辿ってみたら、「どこにでもある」って言ったらあれなんだけど、人間の弱さがもたらした話でした。

ゆに:ストーリーは全体でそんな感じですね。ちょっと細かいところをいろいろ確認していけたらいいなと思ったんですけど。

前編の政治家追ってた段階で、まず41年前の事件を洗い直すところから始めようってことで、泉くんと吾妻さんがね、仲間に加わるところから始まるんですよね。

ゆうへい:ホテルに集まって。

ゆに:で、そこで皆実さんが自分の偽物のお父さん、何だったら自分のことを殺そうとしたクズ野郎である誠―この段階では本当のお父さん、殺されたお父さんと思ってるので、自分のお父さん(仮)と本当のお母さんの話をしながら自分が知ってることを話していく。で、ひとしきり話し終わった後に同じ事件を鎌田の立場からも話した方がいいと思うんで、護道さんよろしくっつって振るんだよね。護道さん「は?」って反応するんだけど、皆実パートと鎌田パートですっていうくだり。あそこ僕めちゃくちゃ笑ったんだけど。

ゆうへい:2人にとって、この41年前の事件を辿るということは自分の人生の根幹に関わる護道さん当事者性の高い話なんだけど、そういうときでも「いつも通り」やるっていう、皆実さんのユーモアとか気楽さ、明るさみたいなのが出てて、あれはすごくいいよね。護道さんの方が神妙な気持ちっていうか、肩に力入ってるのが。

ゆに:お父さん、だって殺人犯(だと思われている)だもん。

ゆうへい:でも、だからこそ「いつも通り」ふざけて場の空気を変えるのが皆実さんなんだよね。いいよね。

ゆに:で、その後ヤマケンさんっていう、護道さんと佐久良さんの師匠だった元捜査一課長の刑事が出てくるんですよね。彼は41年前の事件で最初に広見さんを発見して火事から助けると同時に、鎌田を逮捕した、当時巡査だった人。この人の話を聞きましょうということで。で、ヤマケンさんも皆実さんとも会いたいってことだったからじゃあみんなで会おうよってことになって、広見さんと心太朗さんと佐久良さんとヤマケンさん4人で飲むシーンがあるけど、すごい面白いなと思ったのが、皆実広見がね、ヤマケンさんと打ち解けていって、護道心太朗が佐久良さんに振られた・振ったみたいな失恋話をしてヤマケンさんを笑わせたところで一気に尋問に入っていくっていう。あの辺どうでしたか。

ゆうへい:こう、ふざけた話から急に「ズドン」と懐に入るみたいなさ。で、ヤマケンさんが明らかにハッてなるわけ、表情が変わる。

ゆに:いつも通りの皆実広見っていう感じ。

ゆうへい:これまでの各話の一番完結の事件のときも、だいたいこう、皆実さんはちょいちょいふざけてて、あその場で一緒に飯食ったりとかドラマ見たりとかして楽しんでるんだけど、飄々としてると思ったら急に核心に迫ってくるみたいな。気付いたらゼロ距離みたいな。

ゆに:このドラマ、食事しながらのシーン多くない?それがけっこう印象的で。

ゆうへい: 相手がちょっと油断したところにこうスッと。

ゆに:後半でも、相武紗季が演じる皆実勢津子さんと鎌田國士さん―実は広見さんと心太朗さんの本当のお父さんお母さんである2人は、実は同じ料亭で働いていた同僚だったってことが分かってから事件が一気に展開していくんだけど、広見と心太朗がそこに調査に行くんだよね。

ゆうへい:実際に料亭に行ってね。

ゆに:捜査なんだけど普通に飯食いに行くっていう。で、そこで広見さんは相変わらず女の子大好きで楽しそうに芸妓さんと踊ってるんだけど、あのシーンもただ笑わせるためのギャグシーンかと思いきや、お香の香りっていう事件の決定的な証拠を手に入れるんだよね。そういうふざけてるシーンにいきなり大事な所に繋がるっていう、そういう演出すごい印象的で。

ゆうへい:全体として食事シーンがすごく多いよね、この『ラストマン』ってドラマ。

ゆに:そうですね。

ゆうへい:「食べることは生きること」だよねって、料理系インフルエンサーによる殺人事件の第4話で話したね。最終章も食事シーンが多かった。勢津子さんが子どもを連れて國士さんのところに逃げてきて、オムライス食べながら泣いてるシーンなんかはすごく印象的だったな。料亭での調査もそうだけど、やっぱり広見さんは、目が見えないけど料理の味とか香りとか、食事を誰かと共にする時間とかをすごく大事にしてるし、楽しもうとするよね。全力で楽しみながら、そのときそのときの事件の捜査に必要なヒントは徹底的に逃さないっていうか。そこにすごく彼の生き方が現れてる感じがするんだよね。

ゆに:料亭の食事中にも、41年前の帳簿を調べてさ。

ゆうへい:何日に誰が来たかっていうお客様の来店記録。

ゆに:それをスタッフにもらって、指で触って読みながら飯食ってて。点字でもなんでもない古い資料。

ゆうへい:昔の紙とインクはデコボコで点字じゃなくてもわかるっていうね。

ゆに:それを見てお店の人が「すごいですね」って言ったら「ええ」ってさ、「そうだよすごいでしょ」みたいに返すシーンがあって。なんかね、ふざけてんだか真面目なんだかわかんない感じで、メシ食いながら核心に近づくっていうシーンが印象的でしたね。全然本筋と関係ないけどさ、広見さんが落ち着いてからまた芸妓呼び直して尻文字するっていう、それで心太朗さんが「尻文字上手いな」って突っ込むシーン、あれはなんなの(笑)

ゆうへい:めっちゃつっこんでたよね(笑)。「みーなーみー」って。

ゆに:あれはアドリブ?すごい良かったよね。

ゆうへい:原稿なのかアドリブなのかわかんないけど、でも本当に楽しそうだったね。いやもう、めちゃめちゃ大事な事件を追いながらも、瞬間瞬間に日本の思い出を作ろうとしてる。彼はさ、元々日本で生まれ育ってるけど、41年前の事件に巻き込まれた後アメリカに渡るって、やっぱりアメリカ暮らしの方が長いから、こういう「ザ・ジャパニーズ」みたいなものはこれまでの人生で経験する機会がなかったんだろうね。なんかこう、せっかく捜査で日本に来たなら「もののついで」でね全力で楽しもうみたいな、彼のそのメンタリティ。いいよね。図太い。

ゆに:「そこはアメリカ人っぽいんですね」っていう心太朗のセリフあったね。

ゆうへい:「おのぼりさん」感っていうか。

ゆに:障害者的には他人事でいられない。僕もああいうとこあるから。

ゆうへい:役得するときは全く遠慮せず。捜査の過程でお芝居の収録現場行ったり、インフルエンサーの飯食ったりとか、もう全部楽しんでやるっていう。

ゆに:そう、恥も外聞もないっていう。何でもいいじゃんっていうね。

ゆうへい:いや楽しかったと思うよ、彼の一番重要な目的は、この41年前の事件の真相を辿ることであって、そのためにいろいろ根回ししてもらって、交換研修制度で日本にやってきたんだけど、ただクソ真面目に事件を追うだけじゃなくて、ここで出会った人たちーバディ・兄弟の心太朗だけじゃなくて、捜査一課の同僚とか、事件の過程で聞き取りする関係者とかと、毎日一瞬一瞬を全力で楽しんでるよね、皆実さん。

ゆに:で、そうやってみんなと一緒に楽しんできたことが最終的に活きてくるんだよね。広見さんは心太朗さんなしで最初に真相にたどり着くんだけど、41年前の事件の捜査を、心太朗さんなしでやろうとするのはとんでもない労力になるわけよ。

ゆうへい:目、見えないし。

ゆに:だから、捜査一課の連中がみんなホテルに集まって、裏でこっそり事件の整理、捜査をしてたんだってシーンがあって。あの辺からもう僕はちょっとうるっと来てたんだけど。広見さんと心太朗さんは実の兄弟であることに、広見さんはある時から直感を得てたんだけど、でもその真相が分かったときに、心太朗さんはどう思うだろうかと。自分のことを守ってくれたお父さんをずっと殺人鬼だと思って恨んできてたわけね。逆に自分のこと拾ってくれた護道家のみんなに感謝しつつも微妙な距離を取ってて、非常に複雑なメンタリティで生きてきた。真相は全部逆、今まで自分が守るべき、愛するべきだった人と、恨むとまではいかないけど敵対するべき相手が逆だったっていうことがわかったら、耐えられないんじゃないかっていう配慮で、心太朗さんなしで裏付け捜査をやってたんだよね。

ゆうへい:そうだね。

ゆに:それでも最後、「あなたと共有します」って心太朗さんの言葉を聞いて、鎌田が入院している病室で真実を明かすんだけど…あの辺から僕ずっと泣いてましたね。


ゆうへい:この最終話に至るまでに、いろんなところでいろんな人に出会って、皆実さんは「人たらし」してきたわけだよね。最初はやっぱり日本の警察の人たちもちょっと島国根性的というか、アメリカのFBIから来たこいつはなんだみたいな警戒心を抱いていたのが、実際に皆実さんと出会って関わるたびに、いろんな部署の人が次々と皆実さんのことを好きになっていき…で、やっぱ最後こういう徹底的に証拠を洗うためには人海戦術大事だよねって、一人じゃなくてみんなで、可能性ある手がかりをめっちゃ調べたんだよね、手分けして。これまでの吾妻さんとかとの3、4人のチームでは到底間に合わないやつを、みんなに手を貸してもらって。あれはもうめちゃめちゃベタなさ、それこそ少年漫画とかね、ラスボスとの最終決戦でこれまでのちょい役含めてみんな駆けつけてさ、主人公の道を開くみたいなのと一緒の、非常にこうベタベタのヒーローもの展開なんだけど。

ゆに:元気玉スタイルね。

ゆうへい:すごく好きだし、そんなベタベタなものをここまで真っ直ぐにこうやって視聴者として見せられて、熱くなれる説得力、それを積み重ねてきた脚本だと思うんだよ、この10話に至るまで。

で、心太朗さんがショックを受けるんじゃないかという気遣いのもと。最後の最後まで真相を伏せてたんだけど、「真相を知ったとき、あなたは後悔したんですか」と心太朗さんに聞かれて、「私も後悔しました」って答えたあと、「じゃあ話してください、あなたと共有します」と返ってきて…やっぱ最後はその「バディ」であり実の「兄弟」であった2人の絆の強さ、何を話しても、どんな残酷な真相を話しても大丈夫だと、このブラザーは思ったんだろうね。


ゆに:最後のさ、鎌田さんの病室で家族の真相を話すシーン、すごく男臭い絵だったと思うんだけど。

ゆうへい:そうね。全員男だったね、病室。

ゆに:で、あそこで真相を話すシーンのセリフに移りたいんだけど。そのまずさ、清二さんが結局誠を殺してたっていう、誠がまず勢津子さんを殺し、場合によっては広見さんも殺し、その次は鎌田に罪をなすりつけて家に火をつけようとしてたところに清二さんが来て、清二さんは本当は証拠を隠滅しようとする誠の手伝いをさせられるはずだったんだけど、広見さんがいざ殺されそうになるのを目の当たりにしたときに、こんなのは放って置けないってなって、衝動的に誠を殺害して、で自分が誠と繋がってた証拠を全部焼くために火をつけて。この辺からちょっとね、だんだん清二さんも純粋な正義のヒーローにはなれなくなったんだと思うんだが、でもそのおかげで広見さんが助かったわけだよね。でもその結局さ、鎌田に全ての罪をなすりつけたのは清二さんなわけだし。元はといえばさ、清二さんが最初からね誠や弓塚の汚職に協力してなければ、こんな事態になってないとも言えるわけで、とっくに誠はもう捕まってるはずで。

ゆうへい:この若き日の護道清二と政治家の弓塚がグルになって、そんなことしてなかったらっていう話だよね。

ゆに:そう、だから僕ね、必ずしもこの誠だけが悪いという流れは違くね?っていう風に思うんだよね。ネットでは誠が実はすごい悪人で驚いたみたいな感想が流れてたんだけど、正直僕はさ、このドラマ、ストーリーは面白いんだけど、ミステリーとしては割りと読みやすい思ってて、誠が実は悪いやつなんじゃね?って、僕けっこう初期からゆうへいさんにも言ってたでしょ。だからそんなにミステリーとしての驚きはなかったんだが、彼が悪者っていうだけじゃないと思ってて、僕は。

清二さんもなかなか気が狂ってるっていうか、最低の人間だと思うんだよ。広見さんもさ、命を救ってもらったお礼以外にも、彼に言いたいことあったと思うよ。でも言わなかったのは、それは心太朗が怒るべきことだっていう配慮だと思うんだよね。どの面下げて自分のことを大事に育てたんだって、心太朗が清二さんに激昂するシーンあったと思うけど、多分そうなることがわかってたから心太朗抜きで裏付け捜査をやってきたはずで。そう考えたときに、まず自分が最初に言うべきことは清二に怒る、いつもみたいに正義を振りかざしてぶち切れることじゃなくて…まぁもともと広見さんそんなに激しく怒んないけどさ、41年前に私を助けてくれてありがとうございますって、まず自分を助けてくれたことのお礼を言って、なんか心太朗の「怒る余地」を残したっていう。あそこがまずね、やー、お兄ちゃん…!っていう。

ゆうへい:お兄ちゃんだね。だから、清二がやったことは決して褒められたものではないというか、殺人以前からもう汚職をずっと続けてきた「共犯」で、それで警察組織の上に上がろうとしてきたわけで。まあ非常に旧時代的な警察官僚なんだけど、事実として命、すんでのところで結果的に皆実誠を後頭部殴って殺しちゃったんだけど、彼がそれをしてなければ殺されてたのは広見さんだった。お母さんと一緒に誠が刺そうとしてたから。命を救われたのは事実で、それはそれとしてお礼を言うっていうか。

ゆに:その後だから、心太朗はさ、あなたはどんな顔して俺のことを見てたんだって言えるんだよね。

ゆうへい:そう。「なんとか言えよ!」っつってね。

ゆに:そこでさ、もう一人のお兄ちゃん、京吾さんがいいこと言うんだよね。「お前こそどう見てきたんだ」って。僕ね、京吾さんにねちょっと惚れそうになった。一番最後に息子の泉くんに「正々堂々やれ」って背中を押すシーンも良かった。清二さん、京吾さん、泉くん、ていう、東大卒の警察官僚のエリート親子3世代に渡って、でだんだん汚職度が落ちてく。

ゆうへい:そう。清二なんて汚職してのしあがり、でそれを隠蔽し隠蔽し、隠蔽したまま引退したのが今回真相を明かされてお縄。次の息子の京吾はちょっとまあ清濁併せ飲むっていうタイプだったのが。

ゆに:明白には彼は汚職やってないよね。

ゆうへい:そうそう。汚職とかはやってないけど。なんか組織の中ではいろんな力学があるんだという世界観で。だから泉君は本当に、お父さんから見ると「青い」んだけど、とにかくまっすぐで。その3世代の護道家の変化ってのも。

ゆに:だからその最後、泉くんに「お前がその青さでどこまでいけるのか、俺はずっと見ててやるから正々堂々と進め」って言うシーンがあって、僕はそれ見て京吾さん好きになったけどさ、その彼が、清二さんに掴みかかった心太朗に対して「お前こそそれをどう見てきた」って言う。確かに結果論考えたら清二がやったことって欺瞞なんだけど、でも欺瞞なりにさ、養子取ってさ、一生懸命愛そうとしてきたことは嘘じゃないっていうのを心太朗自身が見てきたはずなわけ。今回の事件で清二さんが犯人だっていう決定的な証拠になったのは、5話か6話で心太朗が心を開いて清二さんに渡したスマートウォッチっていう。

ゆうへい:GPSのついてる。

ゆに:俺あそこがまさか伏線になってくると思ってなくて。

ゆうへい:全然思ってなかった。

ゆに:あれゆうへいさんが元々5話の感想で触れてたよね。

ゆうへい:体、体調を慮るっていう、小さい頃の「肩たたき券」と同じ気持ちで、心太朗が清二さんに誕生日プレゼントとしてスマートウォッチを渡したんだろうな、あれいい話だなーって思って、あれだけの役割かと思ったらその後ここで使われるとは。清二さんもやっぱそれは嬉しかったから使ってたわけだよね。まさかそこから足がつくなんて思わず。

ゆに:でもそれは逆に言うと、心太朗が清二さんのことをお父さんとして愛していたことの証拠にもなっていて、と同時に、清二さんが自分の本当のお父さんを奪った人でもある証拠になってて。その辺はね、「お前こそどう見てきた」っていうあの京吾さんの、もう一人のお兄ちゃんのセリフが抜群に良かったと思う。

ゆうへい:良かった。


ゆに:で、その後、広見さんが続けざまにまたもう1人の、本当のお兄ちゃんとしてさ、広見さんからしたら全然家族関係にない、自分の本当の家族をある意味、遠回しにとはいえ追い詰めるきっかけになった清二さんに対して、「いくつになっても親の言葉が必要な時はあるんです」、って言葉をかけてあげるっていうのは、お兄ちゃん2人、すごいお兄ちゃん…

ゆうへい:そうね。本当。お兄ちゃん。

ゆに:本当、お兄ちゃんでした。で、清二さんが心太朗に「立派な刑事になったな」って言って逮捕された後、いよいよやっとさ、自分の人生全部棒に振って、広見と心太朗の兄弟を守った蒲田が、もう意識朦朧としてるわけだよ、やっと二人子どもたちと会えて、子どもたちはさ、声かけるんだけど、もう第一声がさ、蒲田國士さ「心太朗、腹減ってないか」ってさ、俺あれね、ずるいと思うんだよね(泣)

あの蒲田の「心太朗、腹減ってないか」っていセリフ、これまでも回想シーンでずっと言ってたんだけど、最後に彼から自発的に出る言葉がそれかと…

ゆうへい:すごい。ずっと会ってなかった、ね。でも今際の際。

ゆに:やっときてね。

ゆうへい:そう、呼吸器も付けて。でもその後亡くなっちゃうんだけど。あの一言だよね。あとさ、その蒲田國士、お父さんにさ、心太朗と広見がね、駆け寄ってさ、ベッドのところに、順番に手握るじゃん。あのときに広見さん白杖は置いてさ、もうなんかねちょっとヨタヨタと手探りで心太朗見つけて、もうなんか寄りかかるような、でも一緒に二人で、非常に弱々しいおぼつかない足取りで二人で支え合いながら、二、三歩の距離なんだけどね。鎌田國士に、お父さんにこう倒れかかるような感じでさ。接する。あそこもすごく僕印象的だったな。視覚的にも。

ゆに:また俺そこで「お兄ちゃん」話なんだけど、心太朗が「お父さんごめん」って言ってさ、泣いてる中でさ、割と広見さんは冷静に「あなたのおかげで私たちはみんなから愛されて生きてきました」って言うじゃない。あのセリフやばくない?正確じゃないかもしれないけど。その要するに、鎌田國士がもう本当に父性愛、父としての愛の極致だと思うけど、本当に自分の人生全部犠牲にして二人が生きていけるようにしたっていうので、この二人はさ、とはいえ厳しい生い立ちとなったわけだけど、グレることなく人生を歩んできて、しかも同じ職場を選び、バディになり、事件を散々解決してきて最後ここにたどり着いたっていうこと。その中にはさ、分かりやすいところで言うとまさにその広見さんのことを最初みんな煙たがってたけど、捜査一課のみんな、広見さんのこと大好きになっていって、ああいうこと一つ一つがその、であともちろんその護道家の人たちが心太朗に向けてきた愛も、最初は欺瞞だったりしても愛だから。だからあのとき二人がみんなに愛されてきたってその広見さんのなんかさ、いやそれこそ冷静じゃん。確かあれだよね。広見さんってあの場面ではまだ泣いてないよね。

ゆうへい:いや、ほんとちょっと一筋涙流すくらいで、心太朗はもうお父さんの手握って号泣で、その後ちょっと広見さんも鎌田國士の手を取って私は広見ですってこう名乗り。だからあの70で病気もあって呼吸器つけて意識も朦朧としてるからさ、鎌田國士、お父さんは細かい状況なんかもう全然わからないでしょ。でもとにかくあの二人の言葉で順番に心太朗と広見、自分がその41年前にいろいろ被って守ろうとした兄弟2人、我が子2人がここにいるんだってことはもう死ぬ直前の頭でもわかって。

ゆに:少なくとも、もし耳がちゃんと聞こえてたなら、彼の目の前で事件の真相喋ってたわけだから全部がバレたってことも分かった、聞こえてたはずだよ。だからこう、割となんだろうな、心置きなくお母さん、勢津子さんのところに行けたんじゃないかなっていう気がするね。

皆実さんが、広見さんね、広見さんが一番泣くのは本当に最後のシーンなんだよ。つまりそこ(鎌田の前)で泣くのは心太朗の役目なの。そこが僕またね「別の秩序」というか、ちょっと広見さんの変人性というか、普通の健常者とは違う世界観で生きてるのがなんか伝わった気もするんだよね。それがね僕は好きでしたね。あそこで泣くのはあくまでも心太朗っていうね。

ゆうへい:わかる。どういう場面でもどこかちょっと冷静にというかさ。障害があると。色々。


ゆに:広見さんがね。そこがいいよね。それで鎌田國士が亡くなって、お葬式があって、でもその段階で広見さんはアメリカに帰ることはもう決まっていて。

ゆうへい:フライトの日があって。

ゆに:心太朗くんも当然葬式一緒にやるんだけど、ちょっとやっぱ血が繋がってたってことが心太朗さんは受け入れられず、たぶん蒲田さんが亡くなってから一週間くらい経ってると思うんだけど口が聞けてないんだよね、二人。

ゆうへい:ちょっと気まずいっていうとあれだけど、戸惑いがやっぱりあったわけよ、心太朗の側には。

ゆに:それで広見さんがずっと前回っていうかさ、「真実がわかっても私たちは何も変わりません」と言ってたし、そう思ってたんだけど、人間は弱いものですねって。心太朗さんがもう広見さんの介助してくれないっていうんでデボラさんが代わりにやってくれるんですよね。

ゆうへい:私が空港まで送るわよっつって。

ゆに:というところでさ。デボラさん、だからそれはつまり実は広見さんも、さっきまで言ってたこととすぐ逆のこと言っちゃうけど、広見さんさ、鎌田國士の前ではちょっと人間を超えた冷静さを発揮できたのに、心太朗と二人きりになっちゃったら彼もうまく話しかけられなくなっちゃうっていう、急に健常者っぽくなっちゃって。そこでさデボラとさ、あと心太朗に対して佐久良さんがさ、もうお前らしっかりしろって言うじゃない。あれってなんなんですかね。やっぱなんかちょっとこのドラマ男臭いなってとこ、ダメになったときに女の人にこう喝を入れてもらわないと。

ゆうへい:そう、喝。めんどくせーなって。

ゆに:入れてもらうダメな男どもの話って。そこもだからちょっと古典的だなと思って。

ゆうへい:まあ言ってみれば非常にこうホモソーシャルだよね。こういう関係性や描写が好きじゃない人もまあ当然いるドラマだと思う。特に現代の価値観、あるいは家族やパートナーシップの多様化している中でこういうのはまあ非常に古典的なヘテロセクシャルのホモソーシャルの男くさいドラマなんだけど。でもあの、それはさておき一人の人としてみんな魅力的じゃん。落ち込んだときに佐久良さんとデボラさんがそれぞれに喝を入れるというのは。

ゆに:僕ね、その今ちょっと、これまた立ち入ったことに踏み込むけども、なんでそういうね、男くさい古典的な話になっちゃったかっていうと、事件の発端が極めて伝統的な、家族とか密な人間関係の問題なんだ。そこを描こうとしたらそうなるでしょう。

ゆうへい:だってまあ今2023年だけどさそれとほぼ同じ設定が出すとまでとしたらさ41年引くとさ、80年代でしょ。それはもう昭和ですよ。昭和の世界観なんだから。


ゆに:その家族の中で起こったことを、家族の中の問題を、親世代のすごい秘密を子供の世代が暴いていくとしても、結局さ、それも含めて家族の話だし、だから最終回「わたしの家族」ってタイトルついてる。それはね、男くさい物語になる。

そんなことをちょっと言いつつ、話を戻すと、最後デボラさんと佐久良さんに背中押されて2人が空港でフライト直前、最後のやり取りをするんだよ。心太朗が見送りに来たのに気づいた広見さんの最初の一言が「さすがシンディ、ラストを取りに来ましたね」って。もうふざけてんのかって。いいよね。

ゆうへい:めちゃめちゃいいね。8話のセリフをもう1回ここでね、使うかと。

ゆに:「ヘイブラザー!…本当の兄弟でしたね」って、第1話からのセリフもあった。

ゆうへい:あの、第1話で会ったときに嫌々ながら心太朗はアテンドしてさ、お別れの日を心待ちにしてますって言った。その時広見さんは「ヘイブラザー!なんてことは言わないのでご安心ください」みたいな。

ゆに:アメリカ人だけどそんなふざけたジョーク言わないからねってことね。

ゆうへい:そうそう。その2人が出会ったときと同じ言葉を、全く違う意味合いで最後に使うっていうのがベタベタだけど好きだねこの脚本。

ゆに:「ヘイブラザー!本当の兄弟でしたね」って。ああいうこと言える皆実広見、いいよね。あそこでも冷静なんだよね。ところがさ、いざ2人が兄弟であることの意味をもう一回2人で話すって場面になると、今度は広見さんがね、泣くんだよ。号泣だったよね。

ゆうへい:心太朗が抱きしめて。

ゆに:あなた泣かないって言ってたじゃないですかって言って、むしろなんかこう兄弟逆転するっていう。そのね、内容がいいなって思ったのがさ、結局伏線だったけど広見さんが1話か2話で心太朗に振る舞った肉じゃが。肉じゃがの味を心太朗が懐かしい味ですって言ってて。でもその味っていうのは勢津子さんのすごい癖がある。

ゆうへい:ニンニクを隠し味に使った肉じゃが。

ゆに:そう、だからこの味を懐かしいと感じるのは家族じゃなきゃ無理なはずっていうところかな。もう一つは護道清二が真犯人だっていうのを広見さんが直感するきっかけになったのが、自分がその誰かに救い出されていくときにかいだ匂いが、捜査で訪れた、鎌田國士と勢津子さんが働いていた料亭のお部屋で使ってたお香の同じ匂いだったこと。この2つが、「味や香りは覚えてるんです」って広見さんのセリフの伏線に多分なっていて。或る真実をね、想像するわけ。きっと家族みんなで食卓を囲んだ日があったんですって。鎌田國士、勢津子さん、心太朗、広見。この4人、つまり護道清二が元々皆実誠と組んでなければ崩れなかった、しかも皆実誠が嫉妬を燃やさなければ壊れなかった家族、決してその、歴史上に存在できなかったんだけど理念として残ってた家族に物証を与えるような証拠として肉じゃがの味を残してたってこと。広見さんがね、全然目が見えない中でのイマジネーションの世界で4人が食卓を囲んでいる風景、肉じゃが食ってる風景を妄想するという。でもちゃんと証拠はある。

それはつまり2人が兄弟であることに、肉じゃがの味で気付き、お香の香りっていうのが事件の方の証拠になるわけ。そういう仕方で4人が家族だったんだってことを確認するね、証拠になってるわけでしょ。そこでね、食卓のことあったかなかったかはわからないけど、口の中にあるいは匂いの中に残っている証拠から思い出す(妄想する)って仕方で、広見さんが目に浮かべたときに、広見さんが涙腺崩壊するんだよね。その想像力っていうのは目が見えない人ならではの想像力だから、ある意味障害者の秩序に従った涙であるんだが、そこで泣くんだな、と思いましたね。

で、「今度父から教わった料理を教えてください。私は母から教わった肉じゃがを伝授します」って。

ゆうへい:そう、オムライスと肉じゃが。お互い離れ離れで別々に教わった料理を教え合おうっていう。すでにお父さんとお母さんはもうこの世にいないんだけど。家族の象徴たる料理の味を分かち合おうっていう約束ね。あれは良かったね。

ゆに: ちょっとね、あれは泣かずにはいられないですね。


ゆうへい:で、やっぱこう最後ユーモラスに終わるのも、このドラマの魅力だよね。泣いてもう2人で泣いて抱き合って、「ではまた来週」「え?」って心太朗。今度は交換研修制度であなたがアメリカに来るようになってる。エージェントの審査で合格してましたよ。え、え、えっつって。

ゆに:エージェント誰って。なぜかエージェントがあのホテルのバトラーの難波さんだったっていう。お前かよーって。流石の俺もね、あそこは全く読めなかったね。難波さんって。

ゆうへい:後半数話ぐらい、難波さんの振る舞いとか目線とか表情とか、カメラ入った時に、あっこの人ただのホテルのバトラーじゃない、何かしらこう縦糸に絡んできそうだなってのはあったんだけど。まさか最後のオチに使われる、デボラと繋がってるエージェントだったとは。これはちょっと予想しなかった。

ゆに:しかもギャグだよねほぼ。最終回で、「ではまた来週」って言っちゃったのって、これノリが『銀魂』なんだよ。本当に。ギャグなのよ。

ゆうへい:そうね。いやー。

ゆに:そう、で、最後はそのギャグがあって、もう心太朗はポカンだよね。で、そのポカンとした心太朗を放ってさっさと行っちゃう広見さんなんだけど、その本当に行っちゃうときに全然知らない人に向かってすみません誰か何番ゲートまで案内してくれる人いませんかとか言って、ケントっていう。

ゆうへい:なんかバックパッカーぽい身なりの青年がね。じゃあ僕やりますっつって。

ゆに:で、またそうやって知らない人に助けを求めて颯爽と旅立っていく、広見さんらしい背中を見せて終わっていったという話ですか。ちょっと長かったね。

ゆうへい:でも泣かせて笑わせて。

ゆに:ほんとほんとほんと。ずるいよね。

ゆうへい:ずるいね。今回の収録は50分たっぷり喋って。

ゆに:スペシャルです。今回我々も延長で。本編も最終回延長してたからね。

ゆうへい:そりゃ語ることいっぱいあるよ。いや面白かったな。いいものを。本当にエンターテインメントとしてめちゃめちゃ面白かったしその中にいろんなテーマを込めていて。それがまあなんかちょっとこう僕らもね、収録の最初に話したけど、なんか昔からよくある「障害者もの」と違う面白さで新時代性。

ゆに:やっぱり何と言っても僕がこのドラマを一押しする一番の理由は、何度も言ってるけどミステリーとしてはやや物足りないのぶっちゃけ。全部読めるから。でも小ネタというか掛け合いがまず面白いよね。掛け合いで魅せるって言うのは実は結構難しいと思ってて、つまりキャラクターはやっぱりスタッフがちゃんと愛して作ろうとしないと難しいの。あのね面白いストーリーって逆に言うとキャラクターが生きてなくてもストーリーの面白さで押せる場合があるんだけど、これはキャラクターが生きてるんだよね。

ゆうへい:ほんとみんなイキイキとしてたね。

ゆに:だからすごくなんだろな、エンタメドラマ、つまりストーリーすごく面白いっていうよりは 毎週見ていたい連ドラとして、役者がやっぱいい感じのドラマだったなと思ってますね。演出とね。脚本も非常に素晴らしいんだけども、ミステリーではない、どっちかというと。

ゆうへい:そうだね。だから僕らもやっぱ感想をこの「介助とヒーロー」って題でさ、語りたくなったのは細やかなディテール、障害がある人と介助者含め共に生きる人たちの非常にリアリティがあって。それをそれに僕らを見ながら気づいて語りたくなったっていうか。

ゆに:絶対演出とか役者の人が障害持ってる人と仲のいい友達でもいないと、つくれないキャラクターの描き方だと思ったわけですよ。そこがもうとにかく良かった。

ゆうへい:じゃあまあ最終回、また文字起こししてアップしたいと思います。

ゆに:続編があるといいな。アメリカ編やってほしい。

ゆうへい:そうね。もしくは馬目さんとか他のメンバー主役のスピンオフ。1話完結のとかね。

ゆに:面白かったです。アメリカ編期待してます。

ゆうへい:素敵なドラマありがとうございました。

撮影:Ryoya Nishimura
制作協力(文字起こし):Yu Kawamitsu

前回の記事はこちら:
「共に生きていく」 ことへの責任 ― 介助とヒーロー #6
本企画のアーカイブページはこちら:

ウェブ連載を一冊にまとめたZINE(紙版&電子版)を発行予定です。追ってこのブログでお知らせしますが、ご購入希望の方はぜひご連絡ください。