「一つ」分の目算 2023/12/18-24

「崖から飛び降りながら飛行機を組み立てる」という、スタートアップ業界で有名なたとえ話がある。

起業家たちは、飛行機を組み立てるまでの猶予時間を、ベンチャーキャピタルからの出資によって得ている。設計図通りにいくことはほぼないし、そもそもの設計図自体の精度も粗く、度重なる変更と修正を余儀なくされるものだろうが、少なくとも、我々はこういう飛行機をつくる、その飛行機はこれぐらいの高さまで飛ぶことができる、というビジョンは提示しなければ出資は得られない。

僕がいま書いているもの、書こうとしているであろうものは、なんだろうか。「こういう飛行機」と言葉にできる程度の設計図も、まだない。飛行機ではない可能性が高い。井戸を掘るような行為に近いかもしれない。ただ今はまだ、どこを掘るかも探り探りだ。リソースの調達方法や、そこに働く力の違いはあるが、自分が手を動かさなければつくれないし、のんびり手をこまねいている時間はない(墜落するなり喉が枯れるなりして死んでしまう)ことは同じだ。

カウンセリング室で行われる自由連想法(実際に受けたことはないが)のような感じで、原稿用紙に向かって鉛筆を動かす(動かなかったりもする)。時たま、自分が掘るべきポイントの予感、感触のようなものを得られることがある。コンビニで売っている400字詰め原稿用紙20枚1パック、これが2,3パック、50枚か60枚ぐらいになるまでには、この「出していく」、つわりのような作業は一段落して、それを元に(あるいは捨てて)物語を構想できるようになっているのではないか。もう少し続ける。年内、遅くとも1月半ばぐらいまでには次の段に乗っているだろう。

早くて半年、遅くとも1年、どこかで区切りをつけて仕上げるときがくる。というか、そうしなければならない。一定のペースで単線的にいくものではないが、しかし、作品「一つ」分としては、それぐらいが妥当な目算だと思う。

原稿用紙に向かう合間に、スティーヴン・キング『書くことについて』(田村義進・訳)を読んでいる。

”この詩に職業意識が備わっているのも好感を覚えた理由のひとつだった。詩を書く行為は(小説でもエッセイでも同じだが)、神話的な啓示の瞬間と同様、床掃除とも多くの共通点を持っていることを、それは示唆していた。”

”登場人物に対する作者の当初の理解は、読者と同様、ときとして間違っている。気分が乗らなかったり、イメージが湧かなくなったからといって、途中で投げ出すのはご法度だ。いやでも書き続けなければいけない。地べたにしゃがみこんでシャベルで糞をしているとしか思えないようなときに、いい仕事をしていることはけっこうあるものだ”

とにもかくにも、「一つ」書き上げることだ。その試みがうまくいくかどうか、その先に何が待っているかはわからない。ただ、そのために出来うる限りのことを、言い訳の余地のないように、する。

日銭を稼いで暮らしをどうにかしてから、と言っていたらいつまで経っても書けない、書かない、書き始めないままだったろう。11月の終わりに意思決定をして、身体と時間の使い方を変えたことで、少なくとも沈鬱な気持ちで年末を迎えずには済んだ。

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読んだ/読んでいる本たち

スティーヴン・キング『書くことについて』

マーガレット・アトウッド『侍女の物語』

トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』

平川克美『俺に似た人』

村井理子『全員悪人』

橘川幸夫『参加型社会宣言』

大岡信・谷川俊太郎 編『声でたのしむ 美しい日本の詩 近・現代詩篇』

谺雄二『死ぬふりだけでやめとけや 谺雄二詩文集』

岡原正幸 編著『感情を生きるーーパフォーマティブ社会学へ』

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