17 移ろう季節の中で

 「梅雨がくる前に掘らないと」とKさんが言った。Kさんは子育て支援センターで時々会う、同じひとり親で、畑をやる人だ。春に植えたジャガイモが育っている。雨にやられて腐らないように梅雨前に掘り出すのだと言う。

 晴れた日曜日、息子とジャガイモ掘りに畑へ向かった。いつの間にか花が散り、しかしまだ青々としているジャガイモを引っ張るも、根元には何もついてこない。「まだ早いかな~」と独り言ちながらスコップで苗の植わっていた辺りを掘る。思ったよりも見事な縦長のメークインがたくさん顔を出した。

 スコップで掘り出したジャガイモを手に取り、側に並べるのは息子の役目だ。「1個、2個、……」と数を数えながら一つ一つ横に並べていく。大小含めて全部で30個ほどを収穫することができた。実家へ数個おすそ分けし、残りは自宅で保管している。

 「これいらんかったらいいっちゃけど……」とYさんが遠慮がちにくれたものは、生落花生だった。Yさんも子育て支援センターで知り合った人だ。生落花生は、殻を取って畑に植えれば芽が出ると言う。

 「咲いた花の根元からつるが下の方へ伸びて、地中にサヤを作るから『落花』生って言うとよ」とNさんは言う。彼女は延岡の山の麓で、自然に囲まれた生活をしていて、いろいろなことを教えてくれる。わたしは「へえ~そうなんだ」といたく興味を惹かれ、ちょうどジャガイモを掘り出した畝が空いていたので、そこに撒くことにした。

 南九州が梅雨入りして4日後、久しぶりに晴れたので畑へ行ってみると、落花生の芽がいくつか出ていた。つるが落下するところを観察できるだろうか。心から楽しみだ。

 「Nさんがプランターをくださるんだけど、萌さんも一緒にくる?」

 友人に誘われて、保育園生のときの同窓生のお母さんで、友人がお世話になっている方の家へ向かった。Nさんは気のいい方で、プランターだけでなく、庭に生っているグミの実やミントの葉、ミョウガの苗やパセリなどたくさんおすそ分けしてくださった。

 「ミョウガは半日陰がいいのよ」とNさんが教えてくれたから、日の当たる畑ではなく、東向きのベランダにプランターを置いて植えた。今のところ元気に育っている。グミの実は息子が気に入って、ひとりで全部食べた。

 自然を感じられるこの土地で、気心知れた人たちと生きていくのは、何にも代えがたい。なのになぜか最近のわたしは、この土地を離れたいと心のどこかでいつも思っている。このひと月で、いつの間にか麦が黄金色に色づいて刈られていった。季節は移ろってゆく。