[Article] 「困ってるズ!」記事: 障害のある人への「合理的配慮」は、みんなにとっての「ちょうどいい」につながっていく

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「見えない障がい」をテーマにした情報共有メールマガジン「困ってるズ!」に寄稿しました。

障害者差別解消法と合理的配慮について、障害のある当事者だけでなく、企業や学校などがどのように考えて行動していけば良いのか、というテーマでご依頼いただきました。

全文の転載許可をいただいたので、画像を挿入しつつ、以下に転載します。

「困ってるズ!」では定期的にさまざまな「見えない障害」にまつわる当事者や専門家の方のコラム・エッセイが届きます。
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障害のある人への「合理的配慮」は、みんなにとっての「ちょうどいい」につながっていく
鈴木悠平

たとえばあなたが怪我や病気で、仕事を長期間休んだとき、復帰して間もない日々の業務には、正直、不安もあるでしょう。

本調子に戻るまでは、やっぱりサポートは必要だ。かといって、あんまり過剰な気遣いはかえって居心地が悪い。

つかず離れず、ちょうどいい距離感で見守ってもらえるとありがたい。

だけどその「ちょうどいい」ってどの程度? 周りの人はもちろん、当の本人も案外わからないものです。

「これってどうなってるんです?」
「あ、ごめんごめん、君が休んでる間に変わったんだった」

「ちょっと疲れてるみたいだし、今日はもう帰ったら?」
(言われてみれば…やっぱり体力落ちてるのかな)

そうやって、人と会話を重ねるなかでだんだんと見えてくる、出来ること・出来ないこと・サポートがあれば出来ることの境目。その理解や共有が進めば進むほど、本人も周りの人たちも、お互いが気持ちよく過ごせるようになる。

こうした日常生活上の“チューニング”は、程度の差はあれ、誰もが経験したことがあるはず。大きな病気や障害がなくったって、私たちは、いつも誰かに頼ったり頼られたりしながら、日々のトラブルを乗り越えているのです。

「障害者差別解消法」? 障害のある人への「合理的配慮」? 漢字が並んで小難しく感じますが、なんのことはありません。

普段よりアンテナを広げて、みんなにとっての「ちょうどいい」を探していくプロセスです。最初はおっかなびっくりするかもしれませんが、やってみると意外と面白いものですよ。

今日はそんなお話をします。


◇どこからどこまでが「合理的」?実はどっちも不安に思っている

私は現在、「株式会社LITALICO(リタリコ)」という企業で働いています。「障害のない社会をつくる」をビジョンに、社会の側にある障害を解消していくべく、障害のある方への就職支援・教育サービスや、インターネットメディア等を運営しています。

仕事柄、企業や学校の方々、障害のある当事者や保護者の方々などから、障害者差別解消法や合理的配慮についても相談を受けることがしばしば。事例調査や普及啓発の研修なども実施してきました。

そこでよく聞くのは、こんな声。

障害のある当事者や保護者からは、
「一見してわかりにくい障害だから、甘えだって思われそうで……」
「子どもへの配慮をお願いして、モンスターペアレントって言われないか……」

企業や学校の方々からは、
「事例はたくさんあるけれど、なにが“合理的”なのかわからない……」
「出来ることはやっていきたいけど、余計なお世話って言われないか……」

そう、どっちも不安に思っているんです。

それもそのはず、そもそも「合理的配慮」は個別具体的な調整のこと。何が合理的かは人と場面によって異なりますから、100%万人に適用される“正解”はありません。

「障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて工夫をして困りごとを解消していきましょう。それが合理的配慮です!」(注1)

ふむふむ、定義としては分かる、理念も立派だ、進めていくべきだ。

具体例も、官公庁の出す資料(注2)や色んな団体の出すパンフレット(注3)にも事例は豊富にまとめられている。

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合理的配慮の一例。出典: 「LITALICO発達ナビ」, 「合理的配慮とは?考え方と具体例、障害者・事業者の権利・義務関係、合意形成プロセスについて」https://h-navi.jp/column/article/589

ふむふむ、意外と色んな手段があるもんだなぁ。

じゃあ、うちの職場、うちの学校では何をどこまでどうすべきなの?
障害のある、向こうの席のあの人は、いったい何にどの程度困っているの?

抽象的な理念・定義と、無数にある具体例の間で、何をどう決めていけば良いのか分からない…それが現場の困り感の実態ではないでしょうか。

この悩みに対する万能の処方箋はありません。

障害のある人を含めたコミュニティのメンバーが丁寧に対話を重ね、一つ一つ、そこでの正解を見つけていく、あるいは新たに作っていくしかないでしょう。

大変そうだな……めんどくさいな……と思われた方もいるかもしれません。

無理もないです。“対話”って、とってもエネルギーがいるものですから。

かくいう私も、人見知りがちな性格でして、最初の一声はいつも勇気が要ります。

ですが、やってみると大変なことばかりじゃないんです。障害のある人の合理的配慮を考えることは、学校や職場、みんなで過ごすその環境全体を良くしていくことにもつながるのです。


◇障害のある人への「合理的配慮」は、みんなにとっての「ちょうどいい」につながっていく

「合理的配慮」は、なんらかの困り事を抱える、障害のある人の意思表明によって、場面場面で検討・実施される、いわば対症療法的なものですが、やってみると、「実はみんなも困っていた」、「そもそもこの環境を見なおした方が良い」と気づくこともしばしば。

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合理的配慮のプロセス。出典: 「LITALICO発達ナビ」, 「合理的配慮とは?考え方と具体例、障害者・事業者の権利・義務関係、合意形成プロセスについて」https://h-navi.jp/column/article/589

■エピソード[1]
感覚過敏のある人が、職場でのイヤーマフやパーティションの使用を要望して、合理的配慮として許可することにした。

でも実は、その人以外にも、オフィス環境に落ち着きがなくて働きにくさを感じている人がいたことがわかった。

そこで、上がってきた声をもとに、予算や運用上可能な範囲で、会議室の利用やスケジュール、オフィスのレイアウトを見直すことになった。

■エピソード[2]
聴覚障害のある人、長期記憶や抽象理解が苦手な人のために、会議資料の事前・事後共有の徹底や、書式・フォーマットの工夫をすることにした。

すると、そもそも今までの会議が、目的も曖昧で議論も散逸してばかりの無駄が多いものであったことに気づいた。

障害のある人への合理的配慮をきっかけに、部署の会議や情報共有のあり方自体が見直され、全体の生産性向上につながった。

■エピソード[3]
精神障害があり、不安傾向が強い方のために、業務に慣れるまでの時短勤務を許可したり、勤務開始時間を柔軟に調整できるようにした。

こうした柔軟な勤怠管理制度は、その会社にそれまでなかったものだけれど、前例ができたことによって、育休産休明けの社員についても柔軟に対応ができるようになり、結果、より多様な人材が活躍できる余地が広がった。

などなど……

ここで書いたのはほんの一例ですが、障害のある人への「合理的配慮」を考えることは、実は“みんな”にとっての「ちょうどいい」環境をつくるきっかけにもなるのです。

「できてるよ」と思っていたことが、実はできていなかった。

「もう十分だ」と思っていたら、まだまだ改善の余地があった

でもそれは、長く同じ環境にいればいるほど気づきにくくなるものです。障害のある人のほんの一声が、そのことに気づかせてくれます。

「障害者」=「弱者」だという風に捉えられがちですが、そうではなくて、障害のある人、困っている人は、社会や環境のひずみをより鋭敏に感じ取るアンテナを持っている人、と言えるのではないでしょうか。

「困ってるズ!」の声に耳を傾けて、“みんな”が困らないように環境自体を考えていく。

それは、「どこかの誰か」のためではなく、「わたしたち」のための対話のプロセスです。

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(注1)
合理的配慮の定義やその歴史的背景、考え方や具体例については、こちらの記事をご参照ください。
鈴木悠平, LITALICO(りたりこ)発達ナビ, 「合理的配慮とは?考え方と具体例、障害者・事業者の権利・義務関係、合意形成プロセスについて」, 2016.03
https://h-navi.jp/column/article/589

(注2)
官公庁や、官公庁から委託を受けた研究機関等によって、
合理的配慮の運用指針や、事例検索データベースなども作成・公開されています。

合理的配慮 具体例データ集 「合理的配慮サーチ」
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/

厚生労働省 合理的配慮指針
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/0000078976.pdf

文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/11/24/1364727_01.pdf

インクルーシブ教育システム構築支援データベース インクルDB
http://inclusive.nise.go.jp/

(注3)
LITALICOでは、イラストや事例集、学校や企業との相談シートなどをまとめた、合理的配慮の理解啓発パンフレットを作成し、ウェブ上で無料配布していますのでご参照ください。

学校教育における合理的配慮のハンドブックはこちら
http://leaf-school.jp/hattatsu/consideration.html#handbook
職場における合理的配慮のガイドブックはこちら
http://www.wingle.jp/consideration/

鈴木悠平(すずき・ゆうへい)
1987年生まれ。ひと・もの・ことの間-あわい-にある物語を探求し、企画・執筆・編集業を営む。東日本大震災後の宮城県石巻市におけるコミュニティ事業、大学院での地域保健政策及び高齢者ケアの国際比較研究を経験した後、2014年に株式会社LITALICO入社。現在は、発達障害に関するポータルサイト「LITALICO発達ナビ」(https://h-navi.jp/ )の企画・編集を担当。
ウェブマガジン「アパートメント」(http://apartment-home.net/ ),「soar」(http://soar-world.com/ ),「greenz.jp」(http://greenz.jp/ )等での執筆・編集・運営にも携わる。
Twitter: https://twitter.com/YuheiSUZUKI
Facebook: https://www.facebook.com/yuhei.suzuki
Blog: http://awai.jp.net/

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