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レーモン・クノーの『文体練習』より その11 以下の単語を順に用いて文章を作れ

指定語句: 持参金 銃剣 敵 チャペル 空気 バスティーユ広場 手紙

ある夜私は、見合い一度で結婚を決めたという一人娘に渡すための持参金を握りしめ、山手線に乗り込んだ。車内はやや混雑しており、私は反対側の扉の脇までつめて一息をついた。少し一後に組のカップルが乗り込んできて、私のすぐ背後に立ち止まった。男はやせ型でやや背が高かったが、おかしなことに銃剣を持っていない。銃剣を持っていないでどうして傍らの女を守ることが出来るのかと、私は訝しく思った。そんな私の懸念をよそに、二人は車内広告を見ながら「バルタン星人だ」「宇宙忍者なんだって。知ってた?」などと呑気な話を繰り広げている。そんなことではが襲いかかってきたときにどうするというのか。仮にもし今その広告から怪獣が飛び出してきたとしたら、男は銃剣も持たずにを撃退することができるのか。いつかはチャペルで幸福な式を挙げるつもりだろうに、と、そこまで考えたところで私は、自分の娘と例の男の場合は神前式とチャペルでの式と、はてどちらだったかなと思考を巡らせた。ところが考えてみても答えが出るはずもない。なぜなら私は相手の男に会ったこともないのだから。一方、私の逡巡をよそに二人の男女は、額をコツリと当て合いながら、甘くまどろんだ空気を醸し出していた。

10分も経たないうちに電車は新宿駅につき、私は持参金を落とすまいと再び強く握りしめながらホームに降り立った。向かいまで移動して中央線を持っていると、列の前にいる中年の女がスマートフォンで懸命にと戦っている様子が目に入った。その攻防はさながらバスティーユ広場での血戦という趣きである。そうこうしているうちに電車がやって来たので乗り込んだが、私は迂闊にも中野止まりの電車に乗ってしまったことに気がついた。私の行き先は中野よりはるか西である。おまけに娘に渡すはずの手紙も忘れて来ていたことに、気がついた。

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レーモン・クノーの『文体練習』より その10 虹の七色

人々が家路に着き、若者の街・渋谷が紫色のカーテンに包まれる頃、私は藍色のコートにギュッと身を包んで寒さをしのぎ、青色のイヤホンをして音楽を聞きながら、緑色した電車に乗り込んだ。混雑具合は中程度といったところで、私は迷惑がかからないように反対側の扉まで詰めていった。背後には若いカップルが並んでいて、私の頭上の壁面広告を眺めている。黄色い発泡酒の広告には目もくれず、「バルタン星人だ」、「宇宙忍者だって」と隣の金融屋の広告について話している。その後、橙色のマフラーをした男は、連れ合いの女性に頭をコツンコツンと2回当て、親密そうに身体を寄せ合った。新宿駅で電車を降りてホームの向かいの列に並び、中央線を待っていると、前方の女が一生懸命スマートフォンをいじる様子が目についた。何かのゲームのようで、戦いで体力を消耗したのか画面が赤色に点滅している。激戦の行く末に気を取られるあまり、私は誤って中野止まりの各駅電車に乗り込んでしまった。

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レーモン・クノーの『文体練習』より その9 語順改変

斜め前方の、カップに、乗ると、マフラーを巻いた、月曜夜の、バルタン星人が、山手線に、気づいた。車内に、乗ってしまった。ほどよく混雑した、やせ型の、中年女性が、小柄な、男と、代々木駅で、カップルが、宇宙忍者だと、うとうとしながら、話しているのに、いじっている。壁広告の、指輪をした、中年男性が、女の、頭を、コツンと、ぶつけた。中野止まりの、マックコーヒーの、男は、降りて、夢中で、立っている。女は、スマートフォンを、口に当て、新宿駅に、降りると、フリースを着て、また乗り込んだ。

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レーモン・クノーの『文体練習』より その8 予言

月曜日の夜8時過ぎ、君は渋谷駅から山手線に乗り込むことになるだろう。車内の混雑具合は中程度のはずだが、乗客の中に若い男女のカップルがいることに気づくと思う。男は170cm強のやせ形で、ピーコートにマフラーというあまり特徴のない冬の装いをしているはずだが、車内の壁広告にあるバルタン星人の姿を見て、「宇宙忍者だって」と言い出すはずだ。女は茶髪のボブヘアーで、手にはマックコーヒーのカップを持っていると思うが、君はその手に目を向けた時、左手薬指に輝く指輪の存在に気づくだろう。壁広告をきっかけにした世間話がひとしきり終わった後、二人はじゃれ合うようにして、頭をコツンとぶつけ合うに違いない。

さて君は、3駅先の新宿駅のホームに降り立つわけだが、そこで向かいのホームの女性の後ろに立つことになるだろう。黒い上着を着てずんぐりとした体型の中年女性なのだが、手元のスマホゲームに夢中になっているはずだ。君はその様子を彼女の肩越しから見つめるわけだが、観察に夢中になるあまり、中野止まりの中央線各駅電車に乗ってしまうに違いない。

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レーモン・クノーの『文体練習』より その7 夢

 長く長く続く暗いトンネルのなか、まばらに掛かったカンテラだけが僅かに辺りを照らしている。どうやら私以外も大勢人がいるようだが、どんな顔で、どんな格好をしているのかほとんど検討がつかない。進むでもなく戻るでもなく静かに立ち尽くしている。ふいに後ろから声がしたので振り返ると、明かりの下に二人の若い男女がいて、何やらひそひそ声で話している。揃いのマフラーを巻いて身を寄せ合う二人は、この暗闇がどこまで続こうとも関係ないさという、ある種の楽観を備えているようだった。
 また別の夢。私は大きく開けた平地に立っている。どこからともなくラジオ放送が流れてくるが、何を言っているのか理解できない。10歩、20歩と歩みを進めると、一人の女性の背中にぶつかった。しかし彼女は何の反応も示さず、ただひたすらに手元の銀盤を指で叩いている。私はその行為の意味を推理し始めた。だが、その答えが出る前に、私の思考は寸断された。突如眼前に巨大な馬車が現れ、中から伸びた手に首根っこを掴まれて、そのまま連れ去られていってしまったのである。
 そこで私は目が覚めた。

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レーモン・クノーの『文体練習』より その6 びっくり

いやぁ、おかしいのなんの!こないだの山手線の会話!なにがおかしいって?突然バルタン星人の話を始めたんだよ!後ろのカップルがさ!「宇宙忍者なんだって。知ってた」だと!は!知ってるさ、そんなことは!こちとら幼少期からVHSでウルトラマン全話視聴して育ったんだぜ!挙句の果てに、男の方が「宇宙海賊スペースコブラみたいだ」なんて言い出しやがってさ!女が「なにそれ?」って聞き返したのに男の方は「知らない。なんか先輩がこないだ言ってた」知らねぇで言ってやがんの!その後そいつらは仲よさげに頭をコツンて当て合うわけさ!ウルトラ頭突きってか!

それから新宿駅でホームに降りて、何を見たと思う?中年の女が夢中でスマホゲームを弄ってやがんの!指をクルクル回してさ!何やってるか分かったもんじゃない!おまけにその女の観察に気を取られた俺は、それが中野止まりと気付かず中央線各駅停車に乗ってしまったってわけ!降りてから次の電車を待つまでの退屈さと言ったら!

 

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レーモン・クノーの『文体練習』より その5 遡行

「またやってしまったな。」そう思ったのは中野止まりの中央線各駅停車から降ろされた時だった。中央線在住の私がこのような初歩的なミスを犯したのは、電車に乗る直前、新宿駅のホームで、スマートフォンのゲームに一生懸命打ち込む中年女性に気を取られていたからだ。その前に乗っていた山手線では、ずんぐりむっくりのこれまた中年男性のうたた寝の様子をじっと観察していたわけだが、それというのも、車内で自分の背後に立っていた若いカップルのやり取りが印象的だったため、周囲の人間の所作観察に意識を向けるモードに入ってしまったからだ。二人は「バルタン聖人って宇宙忍者らしいよ。知ってた?」という会話を吊り広告を見ながらしていた。渋谷から山手線に乗り込んだ直後の会話だった。12月1日月曜日の夜のことである。

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レーモン・クノーの『文体練習』より その4 隠喩を用いて

劇場の終わり、地上を回遊する緑色の巨大芋虫に収容されたオットセイの群れの中で、つがいのラッコが何やら貝を叩いているのに気づく。つがいの片方は低い音を、もう片方は高い音を響かせている。貝が割れて歓喜したのか、互いの物をカツンカツンカツンと3度ぶつけ合う。私はというと薄くクリーム色をした動物図鑑を開き彼らの生態を確認しようとしたのだが、ふと右前方を見やると、グレーの体毛をしたゴリラが芋虫の内壁沿いに佇んでいる。小柄だがずんぐりとした体型のそのゴリラは、目を瞑って何やら考えこんでいるようでもあり、眠っているようでもあり、賢者なのか愚者なのか検討がつかぬ。

芋虫が一時停止して脇腹を開いたので私はその隙に脱出し、小さな銀盤を一生懸命つついているキツツキを横目に、今度は黄色い腹をした芋虫に飛び込んだ。

 
 

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レーモン・クノーの『文体練習』より その3 控え目に

わたくしたちは電車で移動しておりました。
まだ若く、落ち着いているとは言い切れないふたりの男女が、壁の掲示物について会話を交わし、それから親密そうに頭をコツンと当てました。
左前方には、熟年の紳士がいくぶんお疲れの様子でまどろんでいるのが見えました。

新宿駅に降り立つと妙齢の淑女が携帯機器を真剣な眼差しで覗きこんでおりました。

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